製品情報
開発の経緯
コルスバ®(一般名:ジフェリケファリン酢酸塩)は、米国Cara Therapeutics社が開発した静脈投与のκオピオイド受容体(KOR)作動薬です。KORを活性化させることにより、抗そう痒作用を示すと考えられます。
皮膚そう痒症は、かゆみの原因となる明らかな皮膚病変がないにもかかわらずかゆみを生じる疾患であり、血液透析治療を受ける慢性腎不全患者に多く認められます1)。血液透析患者のそう痒症は全身のあらゆる箇所に生じ、広範囲、左右対称に断続的なかゆみを引き起こすうえ、睡眠障害、うつ病、死亡リスクの上昇などの悪影響を及ぼすことがあります2〜4)。血液透析患者におけるそう痒症の治療には、透析膜や透析条件の選択による尿毒症性物質の除去、乳液やクリームといった保湿剤やステロイド剤による外用治療、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬による外用又はKOR作動薬の内服治療、広波長の紫外線を用いた光線療法などがあります5)。そう痒症の緩和のために最も一般的に行われるのは外用治療であり、次いで内服治療が選択されています6)。血液透析患者の約40%は、こうした薬物治療を受けてもなお、中等度から重度のそう痒症を有しています6)。
血液透析患者におけるそう痒症では、オピオイドバランスの崩壊が原因の1つとされています7)。オピオイド受容体には3つのサブタイプ(μ、κ及びδ)が存在し、このうちμオピオイド受容体(MOR)はβ-エンドルフィンと結合しかゆみを誘発、KORはダイノルフィンと結合しかゆみを抑制することが知られています7)。そう痒症を有する血液透析患者では、かゆみを誘発するμオピオイド系がかゆみを抑制するκオピオイド系より優位になっていると考えられています7〜9)。
コルスバ®は、透析終了時の返血時に透析回路静脈側のアクセスポートよりボーラス投与する静注剤であることから、服薬アドヒアランス低下も少ないと考えられます。以上より、コルスバ®は既存治療で効果不十分なそう痒症を有する血液透析患者に対し、KOR作動薬を使用する際の新たな治療選択肢になることが期待されたことから、本邦でのコルスバ®の開発を行いました。
海外ではCara
Therapeutics社がコルスバ®の臨床試験を実施し、血液透析患者におけるそう痒症を適応症として、米国にて2021年8月、欧州にて2022年4月に承認を取得しています。2023年4月現在37の国又は地域で承認され、KORSUVA®(米国)及びKAPRUVIA®(欧州)の販売名で発売されています。
本邦では丸石製薬株式会社が2013年4月に日本における開発を開始し、2017年3月からキッセイ薬品工業株式会社と共同で臨床試験を実施しました。国内第Ⅲ相臨床試験で血液透析患者におけるそう痒症に対する有効性及び安全性が評価されたことから、コルスバ®静注透析用シリンジ17.5、25.0、35.0
µgの製造販売承認申請を行い、2023年9月に「血液透析患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)」を効能又は効果として承認を取得しました。
- 1)佐藤貴浩, 他. 皮膚瘙痒症診療ガイドライン2020. 日皮会誌 2020; 130; 1589-1606.
- 2)Narita I, et al. Kidney Int. 2006; 69: 1626-1632.
- 3)Araujo SM, et al. Int Urol Nephrol. 2012; 44: 1229-1235.
- 4)Soleymanian T, et al. J Renal Inj Prev. 2018; 7: 253-258.
- 5)鈴木洋道. 透析そう痒症治療の現状.In:秋葉隆, 秋澤忠男 編集. 透析療法ネクストⅫ 透析そう痒症の最前線. 医学図書出版; 2011. P.49-55.
- 6)Rayner HC, et al. Clin J Am Soc Nephrol. 2017; 12: 2000-2007.
- 7)高森建二, 根木治. 透析患者のかゆみのメカニズム. In: 秋葉隆, 秋澤忠男 編集. 透析療法ネクストⅫ 透析そう痒症の最前線. 医学図書出版; 2011. P.34-41.
- 8)熊谷裕生, 他. 新しいかゆみ治療薬ナルフラフィン(レミッチ®)の臨床開発と有効性. In: 秋葉隆, 秋澤忠男 編集. 透析療法ネクストⅫ 透析そう痒症の最前線. 医学図書出版; 2011. P.94-108.
- 9)Paus R, et al. J Clin Invest. 2006; 116: 1174-1186.