病態
ANCA関連血管炎の病態
- ・ANCAが血管炎を引き起こす機序として、ANCA-サイトカインシークエンス説が提唱されてきました。
- ①感染などの原因により産生された腫蕩壊死因子(TNF)をはじめとする炎症性サイトカインが好中球に作用して、ANCAの対応抗原であるミエロペルオキシダーゼ(MPO)やプロテイナーゼ3(PR3)を細胞膜に表出させる。
- ②これにANCAが結合すること、もしくは、好中球の細胞膜上または近傍でMPOやPR3に結合したANCAがFcγ受容体を介して好中球に結合することにより、好中球の過剰な活性化が誘導され、サイトカインの異常産生を介して血管内皮細胞を傷害する。
- ・近年の研究により、ANCAによる好中球の過剰な活性化には、サイトカインの異常産生に加え、好中球細胞外トラップ(NETs)※の形成誘導も含まれることが明らかとなってきました。これにより、好中球は細胞死に至った後も殺菌作用を発揮できます。NETsは本来、生体防御に不可欠な自然免疫システムですが、過剰なNETsは血栓形成や血管内皮細胞傷害の原因となることが知られています。
- ※:NETsは、活性化された好中球がデオキシリボ核酸(DNA)と細胞質内のMPOやPR3などの殺菌酵素を混ぜ合わせ、網状の構造物として細胞外に放出したものです。
ANCA関連血管炎の病態
TGF:トランスフォーミング増殖因子
IL:インターロイキン
CCL:ケモカインリガンド
MMP:マトリックスメタロプロテアーゼ
VEGF:血管内皮増殖因子
難治性腎疾患に関する調査研究班 丸山彰一、びまん性肺疾患に関する調査研究班 本間 栄:
診断と治療社 ANCA関連血管炎診療ガイドライン2017 p69, 2017
<補体副経路(代替経路)の活性化と好中球プライミング>
- ・樹状細胞により細菌等の抗原提示を受けたナイーブT細胞(Th0細胞)は、TGF-β、IL-6によりTh17細胞に分化し、IL-23の媒介でIL-17を産生する。
- ・IL-17の刺激を受けたマクロファージは、TNFやIL-1βなどの炎症性サイトカインを産生し、好中球をプライミングする。
- ・またこのとき、補体副経路も活性化しており、産生されたC5aが好中球表面のC5a受容体に結合することによっても、好中球はプライミングされる。
<NETs-ANCA悪循環>
- ・細菌等の刺激を受けた好中球はNETsを形成する。
- ・NETsの分解活性が低い場合、NETsが残存し、ANCA対応抗原(MPO、PR3)に対するトレランスが破綻してANCAが産生される。
- ・プライミングされた好中球は、MPO、PR3を細胞膜に表出させ、これにANCAが結合する、もしくはMPO、PR3に結合したANCAがFcγ受容体を介して好中球に結合する。
- ・その後、好中球の過剰な活性化が誘導され、サイトカインの異常産生やNETsの形成を介して血管内皮細胞を傷害する(NETs成分中の血管障害活性を有する分子:MPO、ヒストン、MMPなど)。
- ・活性化された好中球が産生するBリンパ球刺激因子[BLyS(BAFF)]や樹状細胞から、NETs中のANCA対応抗原を提示されたCD4陽性T細胞がIL-21を介してB細胞を刺激し、ANCAの産生が持続する。
- ・このようにNETsとANCAを介した悪循環(NETs-ANCA悪循環)がANCA関連血管炎の病態を形成している。
- ・なお、ANCA関連血管炎患者において、血中レベルで高値を示すサイトカインやケモカイン・成長因子として、IL-6、CCL2、CCL4、VEGFなどが知られている。IL-6は炎症形成段階で重要な役割を果たしているサイトカインの1つであり、血管炎局所に浸潤する単核球ならびに障害部位の血管内皮細胞で産生が認められ、ANCA関連血管炎患者の血清中で疾患活動性に応じて高値を示すことが知られている。
難治性腎疾患に関する調査研究班 丸山彰一、びまん性肺疾患に関する調査研究班 本間 栄:
診断と治療社 ANCA関連血管炎診療ガイドライン2017 p68-69, 2017
補体系の概要
- ・補体の活性化経路には古典経路、レクチン経路、代替経路の3つがあり、活性化のトリガーの違いにより区別されます。
- ・代替経路においてはC3bBbC3bという代替C5転換酵素ができ、C5がC5aとC5bへと活性化されます。
- ・代替経路がその他の経路と異なる大きな特徴は、活性化を制御する外からの因子がなければC3の活性化のループが続き活性化が止まらないという点であり、ANCA関連血管炎においても病態の鍵を握ると考えられています。