いまさら聞けない透析の基礎知識
透析医療の基本知識についてお届けします。
-
災害への備え① 日頃の準備
監修医師:山川 智之 先生 特定医療法人 仁真会 白鷺病院 理事長
近年は、過去に災害が少なかった地域でも地震や豪雨などが発生するようになっています。支援透析のネットワークは広がっていますが、患者さん自身が災害のリスクを認識し、十分な備えをしていなければ、支援につながりにくくなることもあります。災害を患者さんが「自分ごと」として考え、確かな備えができるように支援しましょう。 基本となるのは、各施設が作成している「災害対策マニュアル」です。この内容をスタッフが十分に理解しておくことはもちろん、患者さんと共有しておくことが重要です。そうすることで患者さんの安心感が増し、被災時にパニックになることを防いだり、スピーディに支援したりすることが可能になります。 その上で、患者さんには災害時に必要な情報を提供するようにしましょう。具体的には通院している医療機関の連絡先、検査結果、体重(最近のドライウェイト)、注射している薬、透析条件、穿刺部位などを提供します。スマートフォンなどを持っている患者さんなら、透析記録などを撮影して保存しておくことをすすめるのもよいでしょう。 災害の状況によっては、施設から提供された情報を記載した用紙やスマートフォンを持ち出せないことがあるかも知れません。そうした事態に備え、「ドライウェイト」「シャントの穿刺部位」「透析で使用する薬のアレルギーの有無」は覚えてもらうようにします。また、自己止血ができるように指導しておきましょう。
-
合併症② 腎性貧血
監修医師:鶴屋 和彦 先生 奈良県立医科大学 腎臓内科学
腎臓は、赤血球の造血を促すホルモン「エリスロポエチン(EPO)」を産生・分泌しています。腎臓で産生されたEPOは血流を介して骨髄へ到達し、赤芽球系幹細胞の分化を促します。腎機能が低下し、ヘモグロビン(Hb)の低下に見合った十分量のEPOが産生されなくなると、赤血球が不足して腎性貧血が起こります。腎性貧血の要因としては、血液中に尿毒素が増え、赤血球が造られにくくなる、赤血球の寿命の短縮、鉄代謝の障害、透析回路における残血や出血、栄養障害なども考えられますが、十分には明らかになっていません1)。 腎性貧血の程度をあらわす指標はHb値です。 診断基準、治療開始基準、治療目標値は下記のとおりですが、治療目標値は患者さん個々の状態に応じて設定されます。(以下、日本透析医学会「2015年版 慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン」より抜粋)
-
リン制限の説明のポイント
監修医師:小岩 文彦 先生 昭和大学藤が丘病院 内科系診療センター内科(腎臓)
リンは人体の電解質のうちカルシウムの次に多く、成人の場合は体重の約1%を占めます。その約85%が骨や歯に含まれ、残りの15 %は細胞膜や核酸の構成要素として体内の細胞に存在するほか、エネルギー産生に必要な物質の構成成分になっています 食物から摂取されたリンは約60%が吸収され、残りは便とともに排泄。吸収されたリンは、大半が尿から排泄されます。腎機能が低下するとリンの尿排泄が減るため、体内にリンがたまってしまいます。保存期腎不全から徐々に血中リン値が上昇しており、透析導入後も透析で除去できるリンの量は限られるため、透析患者さんは高リン血症になりやすいです。透析患者さんの管理目標値は透析前で3.5〜6.0mg/dLです4)(健常者の基準値は2.5〜4.7mg/dL)。