【Basic knowledge】透析患者はサルコペニア・フレイルのリスクが高い! 監修:昭和大学藤が丘病院 内科系診療センター 内科(腎臓) 教授 小岩 文彦 先生
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サルコペニアの症状に早く気づくことが大切

近年は、高齢者こそ良質なたんぱく質をしっかり摂ることが推奨されています。骨格筋量が減少していくサルコペニアや、心身が衰え虚弱化するフレイルを予防するためですが、透析患者さんもこれらの予防が重要です。透析患者さんは保存期のたんぱく質制限によって栄養障害を発症するリスクがあり、血液透析療法開始後は毎回の透析療法によって栄養素が失われることもあり、一般高齢者のサルコペニア有病率が6〜12%1)2)であるのに対して透析患者さんは12.7〜33.7%1)2)、フレイルでは地域在住高齢者が約10%前後3)、透析患者さんが13.8〜67.7%3)と、いずれも高率です。フレイルは予後悪化の因子になるため3)、高齢の透析患者さんでは適切なたんぱく質制限と同時に、低栄養やサルコペニア、フレイルの予防対策を行うことが一般高齢者以上に大切になります。

しかし、たんぱく質を摂るとリンの値が上がりやすく、リンの値が高いと血管石灰化が進行し心血管合併症のリスクが上がるため、リン制限とたんぱく質摂取のバランスが難しいのも事実です。医師が栄養状態やリン値、アルブミン値を見てたんぱく質や総エネルギーなどの摂取量を判断し、指示を出しますが、普段の食生活やADLについて情報収集することは透析スタッフの重要な役割です。食が細くなっていないか、摂食・嚥下機能が低下していないかを尋ねたり、サルコペニアの症状であるBMI低下、歩く速度の低下やふらつき、立ち上がるときに手をついたり何かにつかまったりする様子が見られないか注意深く観察することが大切です4)5)。サルコペニアの診断基準の1つである握力(男性28kg未満、女性18kg未満)4)については、ペットボトルのキャップを開けられるかどうかが握力低下に気づくポイントになります6)

気になる患者さんがいたらカルテで検査データを確認し、気づいたことを主治医に報告しましょう。

指示の範囲内での良質なたんぱく質摂取を指導

透析患者さんの1日のタンパク質量の摂取基準は0.9~1.2 g/㎏標準体重/日とされています7)。普段食べている食事の栄養バランスを考慮して必要なたんぱく質量を摂取するためには、良質なたんぱく質を含む食品を選んで食べることが大切です。リンの摂取量をできるだけ抑えながら必要なタンパク質が摂れるよう、リン/タンパク比(mg/g)で比べて、たんぱく質に対してリン含有量が少ない食品を選ぶように指導しましょう。

米や小麦、ソバなどの穀類にもたんぱく質は含まれていますが、透析患者さんが食事摂取の指示を守りながら必須アミノ酸を含む動物性たんぱく質を含めバランスよく摂取するためには、主食のたんぱく質をおかずに振り分ける工夫として低たんぱく米に置き換えるのも一案です。たんぱく質の摂り過ぎを心配して単純に主食の量を減らしてしまうと、総エネルギーの摂取量が減ってエネルギー不足になるリスクがあります。

日本透析医学会の『わが国の慢性透析療法の現況』(2020年12月31日現在)を見ると、慢性透析患者の平均年齢は69.40歳です。1985年は50.27歳でしたから、35年で20歳近くも高齢化したことになります8)。高齢の透析患者さんが増えたいま、サルコペニア、フレイルの予防は透析現場の差し迫った課題であり、透析看護においても重要なテーマになっています。

サルコペニアのリスクが高い患者さんには、たんぱく質摂取の重要性を理解し、実行してもらう必要がありますが、保存期に頑張ってたんぱく質制限に取り組んできた患者さんほど簡単なことではないかもしれません。長年の習慣を変えることや、それによってリンなどの検査データが悪化することを恐れる患者さんの意識を変えるには、医師や管理栄養士などと連携し、統一した方針のもとチームで支援することが大切です。透析導入間もない患者さんには、透析期に適した食事摂取を指導する一方で行き過ぎた制限には危険が伴うことも伝え、将来のサルコペニア、フレイル予防につながる栄養指導を行っていきましょう。

参考文献

1)
日本食生活学会誌 第29巻 第2号 81-84(2018)
2)
サルコペニア診療ガイドライン2017 第2章
3)
フレイル診療ガイド 第4章CQ30
4)
健康長寿ネット サルコペニアの診断
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/frailty/sarcopenia-shindan.html
5)
厚生労働省HP e-ヘルスネット サルコペニア
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-087.html
6)
NHK健康チャンネル
筋力低下・筋肉の減少を起こす「サルコペニア」症状セルフチェック
https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_784.html
7)
透析会誌47(5):287~291,2014
8)
日本透析医学会 わが国の慢性透析療法の現況(2020年12月31日現在)

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