【いまさら聞けない透析の基礎知識】 リン制限の説明のポイント 監修:昭和大学藤が丘病院 内科系診療センター 内科(腎臓) 教授 小岩 文彦 先生

心血管疾患や骨粗鬆症のリスクを招く高リン血症

リンは人体の電解質のうちカルシウムの次に多く、成人の場合は体重の約1%を占めます。その約85%が骨や歯に含まれ、残りの15%は細胞膜や核酸の構成要素として体内の細胞に存在するほか、エネルギー産生に必要な物質の構成成分になっています。

食物から摂取されたリンは約60%が吸収され、残りは便とともに排泄。吸収されたリンは、大半が尿から排泄されます。腎機能が低下するとリンの尿排泄が減るため、体内にリンがたまってしまいます。保存期腎不全から徐々に血中リン値が上昇しており、透析導入後も透析で除去できるリンの量は限られるため、透析患者さんは高リン血症になりやすいです。透析患者さんの管理目標値は透析前で3.5〜6.0mg/dLです1)(健常者の基準値は2.5〜4.7mg/dL)。

高リン血症が引き起こす最大のリスクは心臓や血管の石灰化です。石灰化はリンとカルシウムが結合して起こりますが、それには副甲状腺ホルモンの過剰分泌が関わっています。少し詳しく説明しましょう。腎機能が低下することによって活性型ビタミンD3の産生が減り、腸管からのカルシウム吸収が低下します。すると血中カルシウム濃度が低下するため、カルシウムの貯蔵庫である骨からカルシウムを補おうとして副甲状腺ホルモンが過剰に分泌し、二次性副甲状腺機能亢進症を引き起こします。その結果、骨からリンが溶出して過剰なカルシウムとリンが結合し、心臓や血管などに沈着するのです。また、骨からカルシウムが失われることにより骨粗鬆症のリスクが上がります。

心血管疾患、骨粗鬆症などの合併症を防ぐためにリン制限を行い、たんぱく質(g)×15mg/日以内に収めるようにします。

「リン/たんぱく質比」が高い食品、とくに加工食品に注意!

リン制限のポイントは、①たんぱく質を適切な量摂取する、②リンを多く含む食品の摂取を控える、③食物繊維を上手に摂取する。リンはたんぱく質に多く含まれるため、たんぱく質制限を守ることが基本です。また、同じたんぱく質食品でもリン含有量は異なるため、「リン/たんぱく質比(mg/g)」の低いものを選び、リン/たんぱく質比の高い食品は控えることが大切です。

リン/たんぱく質比が高いのは、乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズなど)、骨ごと食べる魚(ししゃも、ウナギ、シラス干しなど)、魚卵、加工食品(ハム、ソーセージなど)、清涼飲料水などです。なかでも注意したいのが食品添加物を多く含む加工食品や清涼飲料水。なぜなら、含まれているのが無機リンだからです。リンは有機リンと無機リンに分類されますが、無機リンは腸管からの吸収率が高く、有機リンの吸収率が動物性食品で40〜60%、植物性食品で20〜40%であるのに対し、無機リンは90〜100%が吸収されます2)3)。食品添加物の「結着剤」「乳化剤」「かん水」「PH調整剤」「膨張剤」「醸造用剤」などがリンを含みます3)。ファストフードも食品添加物を多く含むものがあるので注意しましょう。

ゆでこぼしや水にさらすといった方法で食品中のリンを減らすことができるので、例えば、かん水を含む麺はゆで汁を捨てる、ウインナーは切ってゆでるなどの工夫により加工食品もある程度食べることは可能です。おでんや鍋料理などは汁を飲まないようにします。

また、食物繊維の摂取は便秘を予防し、リンの便排泄につながります。

一方で、リンを避けすぎるとたんぱく質など必要な栄養素が不足する危険も。とくに高齢者の場合は低リン血症が予後の悪化を招くことがまれにあるので、全身の栄養状態や検査データを確認しながら栄養障害を認める場合には積極的にたんぱく質の摂取を進めるなど、適切なリン制限の指導を行いましょう。

食品中のリン/たんぱく質比https://www.kissei.co.jp/dialysis/recipe/point.html

<参考文献>

1)
透析会誌 45 巻4号 p.301-356
2)
透析会誌 47 巻5号 p.287-291
3)
臨床栄養 2014 vol.124 no.3 317-324

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