【いまさら聞けない透析の基礎知識】 シャントトラブル① シャント血管の狭窄・閉塞 監修医師:旭川赤十字病院 腎臓内科 小林 広学 先生

シャント音とスリル、腫れや痛みの観察で早期発見

適正な透析を行う上でとても大切なシャントですが、さまざまな理由でトラブルが起こることがあります。とくに起こりやすいトラブルは、シャント血管の狭窄や閉塞、静脈高血圧、スチール症候群、動静脈瘤、過剰血流です1)

今回は、発生頻度の高い狭窄と閉塞について解説します。

●シャント血管の狭窄

【原因】

動脈に比べ脆弱な静脈に負荷がかかることや2)、同一部位の穿刺を繰り返すことによる血管内膜肥厚、血栓などです。

【シャント音、スリル】

シャント音が弱く、ヒュンヒュン、キュンキュンなど断続的で高い音がします。また、手でシャント部に触れてスリル(振動)を確認すると、弱いか触れません。

【症状】

狭窄部が硬くなります。透析中にシャント側の腕が腫れたり、痛みが生じることもあります2)
シャント吻合部の近くに狭窄があり、その下流側で脱血している場合は脱血不良、返血部の下流側に狭窄がある場合は静脈圧が上がります。脱血、返血の中間に狭窄がある場合は脱血不良も静脈圧上昇もみられません1)

【治療】

穿刺部を変更しても脱血不良が改善しない場合は、超音波検査で狭窄部位を見つけて経皮的血管形成術(PTA:バルーンPTAとステントPTAがある)やシャント再建術を行いますが、侵襲の小さいバルーンPTAが優先されます。治療を行う条件は、狭窄率が50%以上で、①血流の低下、瘤の形成、静脈圧の上昇、血清尿素窒素(BUN)の異常高値または再循環率の上昇、④予測できない透析量の低下、⑤異常な身体所見のうち1つ以上が認められる場合です2)

●シャント血管の閉塞

【原因】

閉塞には、血栓性閉塞と非血栓性閉塞があり、血栓性閉塞の最大の要因は狭窄です。非血栓性閉塞は、低血圧、血管内脱水、血液凝固能亢進、穿刺部圧迫、感染などなどさまざま要因で起こり、狭窄がすでにあるところにこれらが加わると、閉塞が起こりやすくなります2)

【シャント音、スリル】

シャント音が聞こえず、スリルも確認できません(触れない)。シャント部のみ拍動していることがあります。

【症状】

シャント血管が硬く、発赤がみられ、痛みもあります。シャント側の腕が大きく腫れて痛むことや、手がしもやけのように腫れることもあります3)

【治療】

閉塞して間もない時期は、一般的にPTAを行います。超音波検査で閉塞部位を確認し、血栓量が多い場合は、血栓溶解療法(ウロキナーゼ、ヘパリン化生理食塩水などを使用)や経皮的血栓除去療法、経皮的血栓吸引療法などで事前に血栓を処理します。
血栓性閉塞でも閉塞後長時間経過している場合は、血栓除去カテーテルを用いて血栓除去術を行い、効果が不十分ならシャント再建術を行います。
閉塞は透析に支障が出るばかりでなく、血栓による合併症拡大を防ぐために早急に治療を行うことが重要です2)

トラブル回避には患者さんの「シャント部を守る」意識が必要

狭窄や閉塞を予防するためには同一部位の穿刺を避け1)、透析スタッフがシャント部を観察すること、つまり「見る、(腫れ、発赤の有無)」、「聴く(シャント音の確認)」、「触る(スリル、シャント部の血管の硬さなど)」を欠かさず、異常があればすぐに医師に報告することなどが重要です。しかし、それだけではトラブル回避は難しく、患者さん自身に「シャント部を守る」意識を持ってもらうことが必要です。シャント部を守るために、患者さんには日頃から次のようなことに注意してもらいましょう。

シャント部を守るためには

  • 圧力をかけない
    シャント側の腕で重いものを持ったり、バッグを腕にかけたりしない
    シャント側を服で締め付けない(袖がゆるい服を選ぶ)
    シャント側で血圧測定をしない
  • ぶつけない
    シャント部をぶつけて衝撃を与えたり、傷つけたりしないようにする
  • その他
    シャント側の腕に時計をつけない
    腕枕は避ける
    起床時はゆっくり起き上がる(血圧低下を避ける)など

シャントのトラブルを回避することで、十分な脱血ができて再循環の少ない効率のよい透析が可能となります1)。患者さんに適切な指導を行うとともに、透析スタッフ自身がシャント部を丁寧に扱い、シャント部を守る意識を患者さんと共有することが大切です。

<参考資料>

1)
基礎からわかる透析療法パーフェクトガイド(学研)P72,161
2)
日本透析医学会誌 44巻9号P906-909

イラスト

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