te to te KISSEI
Dialysis Now ダイアリシスナウ

高齢透析患者におけるVA管理/高齢者の皮膚、血管の脆弱性を考えて高齢透析患者におけるVA管理/高齢者の皮膚、血管の脆弱性を考えて

血液透析患者の平均年齢は2017年末時点で68.43歳となり、80歳以上が透析患者全体に占める割合は2割近くに上ります1)。高齢者では皮膚の脆弱性の問題から、若年者に比べてバスキュラーアクセス(VA)の造設や管理に特別な配慮が必要とされています。高齢透析患者のVAへのダメージを与えず、長期的に良好な状態に保つための穿刺や止血などVA管理での注意点について、森下記念病院透析血管外科 特任外科部長の廣谷紗千子先生に伺いました。
廣谷 紗千子 先生
医療法人社団蒼紫会 森下記念病院
透析血管外科特任外科部長
血液透析副センター長

高齢患者が増え続ける日本の透析医療
VAトラブルの原因は年齢より透析歴

高齢者透析患者のVA管理を考える前提として、わが国の慢性透析患者の現状を踏まえる必要があります。日本透析医学会の「わが国の慢性透析療法の現況」によると、2017年末時点での透析患者数は約32万人、平均年齢は68.43歳で、その年齢は年々上昇しています1)。1985年の平均年齢は50.3歳でしたが、95年は58.0歳、2005年は63.9歳、2015年は67.9歳と右肩上がりです。一方、透析導入患者の年齢をみると、65歳未満の患者は2012年から減少しています。つまりわが国では65歳以上の患者がどんどん増えているのです。

ただ、透析患者の高齢化と透析歴が長いということは、VA管理を行う上で全く意味が異なります。森下記念病院の透析患者さん218人についてまとめたデータを示します(表1)。日本老年学会・日本老年医学会による新しい年齢区分では、65~74歳を「准高齢者」、75~89歳を「高齢者」、90歳以上を「超高齢者」と定義しています2)。その定義に基づいて当院の透析患者さんを調べると、非高齢者、准高齢者、高齢者はだいたい同じ割合です。

患者さんの使用VAを種類別にまとめたものが表2、使用VAと透析歴が表3です。90歳以上の超高齢者はたった6人ですが、この方たちは透析歴があまり長くなく、VA管理に困っていません。一方、准高齢者は透析歴が長く、人工血管やカフ付きカテーテルになっている人は20年以上の透析歴です。高齢であることより、長期透析がVAのトラブルの要因になっていると考えられます。

表1:森下記念病院 透析患者218人の年齢区分別人数 表2:森下記念病院 透析患者218人の使用VA種類別人数 表3:森下記念病院 透析患者218人の使用VAと透析歴

私が以前勤務していた東京女子医科大学では、積極的に透析医療を受けたいという難しい病態の患者さんが多く、合併症が多い、特殊な疾患を合併している、透析歴が長いという方がほとんどでした。一方、当院では高齢がゆえに治療に難渋しているという人はほとんどおらず、それぞれ年齢に合った優しい治療を受け、元気に生活を送っています。透析医学会やDOPPS(Dialysis Outcome and Practice Pattern Study)が提唱しているレベルの高い透析とはこういうことかと実感しています。

高齢だから透析導入をしないというのは早計です。適切な治療を行えば高齢でも十分安定した透析が行えます。むしろ、准高齢者で長期透析になっている患者がさらに高齢者、超高齢者になったときに備えた適切なVA管理が大切です。

透析針穿刺は痛みをともなう創傷
高齢者は軽微な外力で組織にダメージ

表4:高齢透析患者の皮膚脆弱性
図1:表皮・真皮の構造

高齢者では循環器をはじめとする様々な臓器機能の衰えがあります。また、高齢患者の透析治療に特有の問題として、皮膚の脆弱性があります。そしてこれと同様の問題は准高齢の長期透析患者も抱えていると思います。ポイントを表4にまとめました3)。透析を行うにあたっては、一般にVA穿刺を行いますが、これは医学的妥当性のある行為とはいえ、穿刺を受ける皮膚や血管にとっては外傷、創傷であることを常に認識しておく必要があります。

透析針の穿刺によって針が皮膚、皮下、血管を貫きます。外筒のカニューラを血管内に留置し、留置中は粘着テープで皮膚に固定します。1回の穿刺でカニューラが血管に到着すれば刺創は細い1本ですみますが、刺した針で皮下を探ったり、抜針後の止血が十分でない場合は、皮下血腫が形成され、皮下が挫滅された状態になってしまいます。たとえ刺創が1本であっても患者には疼痛を与えますし、皮下の挫滅があると感染の危険さえも生じます。穿刺はこれだけの創傷を与えているのです。

特に高齢者の皮膚は脆弱であり、軽微な外力でも表皮剥離や皮下出血を起こしやすい。例えば、軽い外傷などたいしたことのない刺激で表皮が剥けてしまったり、低温火傷になったりしますが、それでも痛みをあまり感じないため、気づくのが遅れ創傷治癒の遅延につながります。高齢者の穿刺の際には脆弱な組織を壊さないように、駆血・穿刺・固定・抜針・止血は確実に優しく行い、皮膚や血管にダメージを与えないようにする努力が必要です。

高齢者の皮膚が脆弱であることを皮膚の構造からみてみます。正常な表皮と真皮の構造は図1のようになっており、両者の接点は波状になっています3)。ただ高齢になると真皮の波が偏平になり、接着面積が少なくなるため、表皮と真皮がずれやすくなります。桃の皮と同じように、皮膚がほんの軽微な外力でずれてしまうのです。

また、高齢者の皮膚ではターンオーバーの時間が長いため、角質層に古い細胞が厚く重なる一方、水分との結合が低下するために乾燥し、ひび割れが起こりやすくなります。ひび割れが起こると、痒みを伝達する神経が刺激を受けやすくなり、痒みを感じやすくなるのです。

常に皮膚を健康で清潔に
患者を観察し慎重な対応を見極める

高齢者のVA管理では、穿刺の手技はもちろんですが、皮膚や血管の脆弱性と治癒力の低下を念頭に置き、常に皮膚を健康で清潔な状態に保つことが大切です。

まず保湿です。天然保湿成分や角質細胞間物質であるセラミドが減少していたり、角質層が肥厚化していると考えられるので、尿素、ヒアルロン酸、水溶性コラーゲンなどを含む保湿剤で皮膚の保護を行います。痒みに対しては、中枢および末梢の内因性オピオイド受容体のうち、痒みを誘発するμ受容体が優位となっており、その抑制作用のあるκ受容体を選択的に活性化するナルフラフィン塩酸塩が有効と報告されています。

カニューラを固定する粘着テープにも気配りが必要です。乾燥した皮膚に貼ったテープを剥がすときに、角質も一緒に剥がしてしまうと痒みが出ることがあります。肌に優しい粘着テープはいろいろあります。テープの素材にはポリプロピレンやセルロース、和紙があり、粘着剤にはアクリル系やシリコン系などがあります。それぞれの特性を理解して選んでいくとよいでしょう。

穿刺では確実な手技が求められます。組織の弱いところを刺すのですから、挫滅創にしないために一本のきれいな刺創となるよう、皮下を探ることなく、血管に穿刺することが理想です。皮膚やVAの状況から穿刺が難しい患者では、最初に針をうまく刺せないと、担当者は動揺して何度も刺してしまうことがあります。2回刺してうまくいかないときは担当を変えるといった対処も必要になります。

針を刺すときの駆血でも注意点があります。高齢者など皮膚や血管が脆弱な場合は、駆血し続けていると、穿刺部からの内出血を起こすことがあります。ですから、まず中枢側(返血側)から穿刺し、その後いったん駆血帯を外し、初めの針よりも末梢側に駆血帯をかけ直して、そこからさらに末梢側に脱血側の針を刺すことで、穿刺時のトラブルを防ぐことができます。

図2:血管と皮膚の針孔位置のずれに合わせた圧迫止血

止血も重要です。組織が弱いので針を抜いた後にしっかり押さえないと、皮下に血腫ができ、そこが感染することもあります。図2の左上のように針は斜めに刺すので、針が皮膚に刺さった孔と血管に刺さった孔は1〜2mmずれています3)。ですから、左下のように血管と皮膚と両方の孔を押さえることが肝要です。右下のように皮膚の孔だけ止めて血管の孔を止めないと、皮下に血腫ができ、組織が弱いとそれがすぐに広がってしまいます。止血を確実に行うことは、皮膚や血管の創傷の回復を早める効果があります。止血は透析の終わりではなく、次の透析を安全に始めるための準備だと考えてください。

このように高齢者や長期透析者の場合には気を使うべき処置や手順がありますが、すべての患者に同じように対応する必要はありません。日ごろから患者の様子についてレベルの高い観察を行うことでどの患者に、より慎重な対応が必要かどうかを見極めることができます。

当院では皮膚を清潔にし感染を防ぐために、穿刺前に患者さん自身で腕を洗ってもらっています。こすらず優しく洗います。保湿剤と皮膚の清潔によって、当院ではシャントの感染は経験したことがありません。

内シャントを後天的な内臓と考えて
優しい管理で安全な透析治療を

当院では内シャントを20~30年使っている患者さんが少なくありません。長期安定維持ポイントは、保湿、清潔、確実な穿刺と止血を継続し、シャントを優しく管理することです。

内シャントは本来、傷んで当たり前といってもいいでしょう。動脈と静脈を吻合するため、120mmHgの動脈圧の血液が、それまで10〜20mmHgの圧力しか受けていなかった静脈に流れ込み、血液の流量は50倍以上になります。増加したシェアストレスが血管内壁を傷めることになりますが、静脈の血管は何とか適応しようとします。私は、過酷な状況に置かれた静脈が後天的な内臓に変わっているのがシャントだと考えています。新しい臓器ですから定期的な診察が必要ですし、少しでも異変があれば大事に至らないよう早めに対処します。VAの管理とは、シャントという臓器を健康な状態で管理していくことにほかなりません。

患者さんには、けなげにがんばっているシャントに名前をつけて可愛がってください、と言っています。患者さんがシャントをいたわれば、自分でその変調にも気がつきますし、透析全体に前向きに取り組めるようになります。

わが国の透析患者の内シャントの割合は約9割で欧米に比べ高いことが明らかになっています4)。これは体格の違いの影響があり、欧米人のように体格が大きいと透析時の血流量も多く、内シャントでは確保できません。一方、日本人はシャントを皮下の浅いところに造設することができ、それで十分な血流量を得られます。内シャントによって安全な透析を行うことができ、それが生命予後を改善し、長期透析を可能にしている要因のひとつだと考えています。それだけにVA、特に内シャントを優しく管理することが、患者のQOLを向上させる上で重要だといえるでしょう。

1)透析会誌. 51:699-766, 2018.
2)高齢者の定義と区分に関する、日本老年学会・日本老年医学会 高齢者に関する定義検討ワーキンググループからの提言(2017)
3)廣谷紗千子. 臨牀透析. Vol.32 No.07, 2016.
4)Pisoni RL, et al. Am J Kidney Dis. 65:905-915, 2015.

※掲載内容は、作成時点での情報です。
転用等の二次利用はお控えください。

当社ウェブサイトでは、ご利用者の利便性向上と当社サービスの向上のためCookieを使用しています。また、当サイトの利用状況を把握するためにCookieを使用し、Google Analyticsと共有しています。Cookieによって個人情報を取得することはありません。Cookieの使用にご同意いただきますようお願いいたします。詳しくはこちら