夜間頻尿には睡眠障害、膀胱容量減少、夜間多尿*という3つの病態が関係し、背景にはさまざまな疾患が存在しています(図1)1)。これら主要3病態の中でも、夜間多尿は合併頻度の高さから夜間頻尿の最大の原因とされています。
諸外国の疫学調査では、夜間頻尿患者における夜間多尿の有病率は、欧州で76%2)、米国では88%2)、アジア(台湾)でも82.9%3)と高いことが報告されています。また、オーストリアでの検討4)では、夜間頻尿の原因に占める夜間多尿の割合は33%、膀胱容量減少を併せ持つ割合を合わせると半数以上を占めるという結果が出ています。さらに、Goessaertら5)は、夜間排尿回数が多くなるほど夜間多尿や膀胱容量減少を併せ持つ患者割合が増え、夜間排尿回数が2回以上になるとその割合は約2/3に達すると報告しています。福井県での調査でも、過活動膀胱(OAB)を背景とする膀胱容量減少の有病率は20~30%にとどまるのに対し、睡眠障害を伴う場合も含めた夜間多尿は70%を占めるという結果でした。
*夜間多尿:1日の総尿量に占める夜間排尿量の割合が33%以上と定義
夜間多尿は、加齢に伴う変化と捉えることができると思います。
根治的前立腺全摘除術や前立腺癌、膀胱癌、神経因性膀胱等の既往のない50~78歳の男性1,431人を対象に、年齢で2群に分けて尿産生量の日内変動を比較したところ、若年(50~64歳)群は夜間(午前1~6時)に尿産生が低下し日中(午前9~午後10時)に増加するのに対し、高齢(65~78歳)群では、夜間と日中の尿産生量に差がみられませんでした6)。この結果は、夜間多尿が加齢に伴うものであることを示唆していると考えられます。また、Nakamuraら7)は、加齢に伴い膀胱容量が1日を通じて減少することを示しています。
加齢以外の原因には、飲水過多、食塩の過量摂取、ある種の薬剤の使用が挙げられます。
飲水過多の背景には脳卒中や心筋梗塞の防止目的に血液粘稠度を下げようと、1日2L以上の水分摂取を勧める状況があります。しかしながら、65歳以上の11人を含む21人の健常者を対象としたSugayaら8)の検討では、2L以上/日を1週間摂取しても血液粘稠度に変化は生じませんでした。一方で、全被験者群、65歳未満の被験者群、65歳以上の被験者群における昼間の排尿回数はすべて有意に増え、夜間については全被験者群と65歳以上の被験者群で有意に増加しました。このように、飲水過多は血液粘稠度の低下に無効であるばかりか、夜間頻尿の危険因子になると考えられます。
日本では以前から食塩の過剰摂取が問題視されてきましたが、Matsuoら9)の最近の研究では排尿回数や尿量の増加要因であることが明らかにされています。この検討では、下部尿路症状を伴う728例の患者を食塩摂取量(9.2g/日)で2群に分け、少量摂取群と多量摂取群の昼間と夜間の排尿回数および尿量、夜間多尿指数が比較されました。その結果、多量摂取群の昼間と夜間の排尿回数および尿量、夜間多尿指数は、いずれも少量摂取群に比較して有意に高値でした。
抗コリン薬やループ利尿薬など薬剤が夜間多尿の誘因となることもあります1)。特に、Caチャネルブロッカー(CCB)の使用については、高血圧患者1,865例(降圧薬使用患者は1,204例、非使用者は661例)を対象とした検討10)において、55歳未満の女性高血圧患者では降圧薬非使用群に対する降圧薬使用群の夜間多尿オッズ比(OR)が有意に高値であり、55歳以上の女性高血圧患者でも有意傾向を示しています。男性高血圧患者でCCBの使用が夜間多尿に明らかな影響を示さなかったのですが、これは高率に合併する前立腺肥大が夜間頻尿症状を修飾したためと考えられます。
バソプレシン(AVP)の分泌低下は、夜間多尿の増大において最も重要な機序と考えられます。菊地11)は、理学的所見に異常を認めない健常若壮年者群15例と夜間頻尿を伴う高齢者群30例を対象に、24時間にわたるAVPの血中濃度推移を比較しました。その結果、健常若壮年者群の血中AVP濃度は昼間に比べて夜間の方が高く、尿量は昼間に多く夜間に減少したのに対し、高齢者群では血中AVP濃度が昼間に比べて夜間の方が低く、尿量は昼間よりも夜間の方が多いことがわかりました(図2)。
AVPは腎集合管での水分再吸収を促進するホルモンですから、分泌低下は尿量の増加に繋がります。菊地の検討11)は、高齢者に多発する夜間多尿の増大が、加齢に伴う夜間のAVP分泌低下を原因とするものであることを示唆していると言えます。
高血圧が夜間頻尿の独立した危険因子であることは、広く知られていたのですが12)、夜間多尿との関係性の検討は行われていませんでした。しかしながら、実臨床では高血圧を伴う夜間多尿の患者によく遭遇します。OASIS Project Groupでは「高血圧が夜間多尿の有意な危険因子である」との仮説を立て、これを検証するための多施設共同横断研究13)を行うことにしました。
研究対象者の適格条件は、年齢が40歳以上、過活動膀胱症状質問票(OABSS)による評価で週1回以上の尿意切迫感、夜間排尿回数1回以上としました。泌尿生殖器癌、多発性硬化症、脊髄損傷、パーキンソン病、尿道狭窄、登録前6ヵ月以内の前立腺手術、尿路感染症、尿路結石、導尿あるいは自己導尿の既往、質問票への回答不能者、多尿(40mL/kg/日以上あるいは3,000mL/日以上)あるいは尿量データの得られない患者は対象から除外しました。被験者の血圧を測定し、正常血圧の方にはアンケートへの回答と3日間の排尿日誌の記載を求め、血圧高値の方にはこれらに加え、朝晩の血圧および心拍数を3日間にわたり測定し記録していただきました。
3日間にわたる排尿日誌の記載と、血圧および心拍数の記録が得られた解析対象は1,271例(男性600例、女性671例)となりました。夜間排尿回数別に夜間多尿患者割合をみたところ、排尿回数が1~2回は48%、2~3回は68%、3回以上になると93%と、両者が正の相関を示すことがわかりました。また、男女とも年齢とともに夜間多尿患者割合が高まることがわかりました。
まず、解析対象の1,271例を、日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2009」における分類に従い、非高血圧群、コントロール高血圧群、未治療高血圧群、治療抵抗性高血圧群、分類不明に分けてみました。その結果、非高血圧群の占める割合は24%、分類不明を合わせても41%ということで、OAB患者は高率に高血圧を合併することがわかりました。
次に、男女別に解析を行いました。男性患者群では、OAB症状スコアの有意な差がみられたのは非高血圧とコントロール可能高血圧群の間のみでした。また、夜間排尿回数、夜間多尿指数についても高血圧との間に有意な相関を認めませんでした。夜間多尿に関する多変量ロジスティック回帰分析の結果、有意な因子は、年齢と良性前立腺肥大を示唆する下部尿路症状(LUTS/BPH)であり、高血圧の合併は有意ではありませんでした(図3)。そこで、LUTS/BPHの有無でどのような違いがあるのかを検討した結果、LUTS/BPHあり群はなし群よりも有意に高齢であり、高血圧などの生活習慣病の合併頻度が有意に高く、夜間多尿指数も有意に高いことがわかりました。また、自然発症高血圧ラットでは、前立腺の急速な肥大が観察されます14)。これらの知見から、男性においても高血圧が夜間多尿に関係すると考えています。
他方、女性患者群の場合は高血圧と夜間排尿回数、夜間多尿指数、OAB症状スコアがいずれも有意に相関しました。夜間多尿に関する多変量ロジスティック回帰分析の結果、女性患者群の場合は年齢、心拍数とともに、高血圧が夜間多尿に関係する有意な因子として抽出されました(図3)。
夜間頻尿の非薬物治療には飲水制限、減塩、そして、総合的な生活指導があり、それぞれに有効性を示すエビデンスが存在します。
まず、飲水制限ですが、Taniら15)は24時間尿量が30mL/kg以上の男性67人(脱落の2人を除いた平均年齢:72歳)を対象に、尿量が30mL/kg未満になるように4週間にわたる飲水制限指導を試みています。その結果、24時間尿量は37.1±7.4mL/kgから26.8±5.2mL/kgに有意に低下、排尿回数も4.1±1.5回から3.1±1.3回へと有意に減りました。
減塩の有効性についてはMatsuoら16)が検討しています。夜間頻尿患者321例に対して減塩を指導し、成功した223例(ベースラインから12週時までの食塩摂取/日の変化10.7→8.0g、p<0.001)と失敗した98例(同9.6→11.0g、p<0.001)における排尿パラメータを比較しました。その結果、減塩成功群では昼間および夜間排尿回数、水分摂取量、昼間および夜間尿量、夜間多尿指数のすべてで有意な低下が観察されたのに対し、減塩失敗群では夜間多尿指数を除くすべてのパラメータが有意に上昇していました。
Sodaら17)は、症候性の夜間頻尿患者56例を対象に、床上時間の短縮、飲水制限(特に夕方の飲水と就眠前のアルコール・カフェイン摂取を制限)、夕方20分以上の歩行、ベッドの保温という生活指導を4週間にわたって行い、夜間頻尿に及ぼす影響を検討しました。その結果、平均夜間排尿回数は3.6回から2.7回となり、1回以上の減少をみた患者割合は53%、夜間尿量は923mLから768mLへと減少しました。
男性患者と女性患者とでは、第一選択薬が異なります。男性の場合は、BPHを考慮して行動療法やα1遮断薬、並びにホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害薬などを選択肢として治療を行います。女性患者の場合は、OABを考慮して行動療法や抗コリン薬、β3アドレナリン受容体作動薬などを第一選択薬として治療を開始します。
デスモプレシン自体は、諸外国で1970年代より中枢性尿崩症などに使われてきた薬剤ですが、高齢者に使用する際には安全性を担保する必要があり、低用量製剤の開発が進められてきました。
図4に、男性患者を対象とした国内多施設共同無作為化プラセボ対照二重盲検比較第Ⅲ相試験の概要を示します18)。プラセボ投与による1週間のスクリーニング期間に生活習慣の指導によって夜間多尿が改善した患者を除く342例を被験者として、実薬の2群とプラセボ群に1:1:1で無作為に割付けました。試験期間は12週間です。平均年齢は3群とも63歳前後で、65歳未満と以上の患者割合、その他の因子に群間差はありません。ベースライン時の排尿パラメータについても群間差は認めませんでした。
まず、有効性についての結果です。主要評価項目である25μg群および50μg群の投与12週間の平均夜間排尿回数のベースラインからの変化量は、プラセボ群に比較し有意に減少しました(それぞれのp=0.0143、p<0.0001、ANOVA:図4)。また、ベースラインからの夜間排尿回数の有意な減少は、25μg群、50μg群ともに投与開始1週後から認められ、試験終了の12週時まで継続していました(図4)。さらに、12週時に夜間排尿回数が平均値で1回以下に減少した患者割合はプラセボ群27%、25μg群38%、50μg群50%で、実薬群はいずれもプラセボ群に比較し有意に高値を示していました(それぞれのp=0.0229、p<0.0001、GEE)。これらの結果から、低用量デスモプレシンが夜間頻尿患者の排尿パラメータを有意に改善することが検証されました。
HUSは、プラセボで62.97分、25μg群で93.37分、50μg群で117.60分となり、プラセボとの比較でも有意に延長しました(図4)。これらのデータは、睡眠の質に対するミニリンメルト®50μg/25μgの副次的な影響を示しています。
安全性についてですが、表に副作用の発現状況をまとめました。ミニリンメルト®50μg/25μgには、その作用機序に起因して低Na血症、血中Na減少という特徴的な副作用が発現するのですが、いずれも50μg群において65歳以上の患者群にそれぞれ2例、1例の合計3例で認められました。この点については、同剤の投与開始前、開始1週間以内、1か月後、その後は定期的に血清Na値を測定し、異常低下のないことを確認する必要があると言えます。投与開始または増量後に血清Na値が急激な低下を認めた場合、あるいは135mEq/L未満となった場合は投与を中止する旨が添付文書に記載されています。
現在の夜間頻尿診療ガイドラインは、2009年に作成されてから10年以上が経過しています。その間、上述しましたような新たな知見、しかも日本発のエビデンスが多数発表されていますので、それらを反映して診療ガイドラインの改訂を行うことになりました。ミニリンメルト®OD錠25μg、同50μgは、今回の夜間頻尿診療ガイドラインの主な改訂点の1つになると思います。新たに追加されるエビデンスが豊富なことから、改訂後のガイドラインの内容は充実したものになると期待しています。
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