加齢に伴ってみられる変化のひとつに、排尿障害、下部尿路症状の発現が挙げられます。実際に、在宅要介護高齢者では約6割が尿失禁を有していることが示唆されています2)。平成30年度介護報酬改定では、『排せつ支援加算』が創設されました。
排せつ行動は、要介護者の個人の尊厳や生活意欲に大きな影響を及ぼします。同時に、介護者にとっては、トイレへの介助や排尿コントロールへの介助は、身体的にも精神的にも負担になりやすいことが指摘されています。65歳以上の高齢者のみの世帯で介護認定を受けた高齢者が同居する93世帯の主介護者を対象に、面接による調査が行われました。その結果、日常生活動作(ADL)介助をするうえで主介護者が負担を感じると最も多く回答した項目は、「排尿コントロール」30.4%、次いで「食事」18.5%とのことでした。
また、要介護者のADL各項目について「負担を感じる」群と「負担を感じない」群に分けてZarit介護負担感尺度22項目版(J-ZBI22)の総得点を比較した結果、「トイレ動作への介助」(p<0.01)、「排尿コントロールへの介助」(p<0.05)に「負担を感じる」介護者は「負担を感じない」介護者と比較して有意に介護者の負担感が高まることが報告されました(表1)。
また、要介護者・介護者の排尿に関する治療意向についても調査が行われています。サービス付き高齢者住宅などを利用する要介護高齢者273名、ならびに各施設に勤務する介護者64名を対象に、個別インタビューやアンケート調査が行われました。
その結果、要介護高齢者273名中、排尿について「やや問題がある」、「問題がある」、「非常に問題がある」との回答が計67名(24.5%)でした。そのうち「症状を改善したい」と回答した36名中、26名(72.2%)が「症状が改善するとしたら治療を望む」と回答しました。介護者64名については、「要介護高齢者に対し、排尿に関する症状が改善するとしたら、医師の治療を望みますか」に対して「はい」が56名(87.5%)にのぼりました(図1)。
同調査では治療状況も調査しており、3ヵ月以内に治療を「受けた」と回答した割合は9.9%であったことから、著者らは治療意向と治療状況に「大きなギャップが存在した」と考察しています(※同調査は、キッセイ薬品工業株式会社が企画・立案し、その資金提供によりIQVIA サービシーズジャパン株式会社が実施した調査です。そのほかCOIの詳細は、図1に記載しています)。
なお、要介護者については、排尿問題があっても医療者や周囲に伝えない可能性も示唆されています。東京都内の老人ホーム1施設で行われたアンケート・面接調査では、回答が得られた821名中124名(15%)が「尿失禁がある」と回答しました。一方、寮母さんや同室者から「尿失禁がある」と指摘された方が25名いましたが、調査そのものを拒否した方が6名、「尿失禁はない」と回答した方が8名であったことから、著者らは「56%の人が尿失禁の存在を知られたくないという心理がはたらいていることが判明し、尿失禁問題の複雑な一面が窺えた」と報告しています3)。このため、在宅ケア項目の中でも、特に排尿問題の有無や治療介入の必要性については、要介護者だけでなく介護者からの聞き取りも重要であると考えられます。
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