泌尿器科医に聞く!婦人科における下部尿路症状の診療のコツ

婦人科における尿失禁や尿意切迫感などの下部尿路症状について治療のポイントを解説します。
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過活動膀胱の診断と治療に関するポイント
札幌医科大学医学部 泌尿器科学講座 教授 舛森 直哉 先生
日本排尿機能学会が2023年に実施した疫学調査によると,20歳以上の女性の76.5%が何らかの下部尿路症状(lower urinary tract symptoms:LUTS)を有しており,その割合は加齢に伴い高くなります1)。LUTSは性別によって現れやすい症状が異なり,女性では頻尿,夜間頻尿,尿意切迫感,尿失禁といった蓄尿機能障害が中心となります2)。いずれの症状も日常生活に何らかの影響を及ぼしていることは明らかで,尿漏れパッドなどの排泄ケア市場は拡大の一途をたどっていますが,女性の受診率は低く1),婦人科を受診する患者さんのなかにも一人で悩まれている人が多くいることが想定されます。 今回は,女性下部尿路症状(female lower urinary tract symptoms:FLUTS)の一つである過活動膀胱(overactive bladder:OAB)の診断と治療のポイントについて,切迫性尿失禁も含めて解説します。
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尿失禁の診断と治療に関するポイント
札幌医科大学医学部 泌尿器科学講座 教授 舛森 直哉 先生
FLUTSの蓄尿症状の一つである尿失禁のうち,婦人科外来で診療対象となるものは腹圧性尿失禁(咳,くしゃみ,腹圧が加わる動作時に生じる),切迫性尿失禁(尿意切迫感に引き続き生じる),混合性尿失禁(腹圧性と切迫性の両方が認められる)に分けられます2) 。その他に,尿道外尿失禁,溢流性尿失禁,機能的尿失禁もありますが,これらは泌尿器科の専門的な対応が必要になります3) 。 LUTSに関する大規模疫学調査(20~99歳,6,210名[女性3,088名])の2023 Japan Community Health Survey(JaCS 2023)で,腹圧性尿失禁,切迫性尿失禁は男性より女性に多く,年齢が高くなるほど増加することが明らかにされています 1, 4) 。
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下部尿路症状の初期対応と専門医に紹介するポイント
札幌医科大学医学部 泌尿器科学講座 教授 舛森 直哉 先生
婦人科診療中に訴えられることが多い下部尿路症状 患者さんが閉経関連尿路性器症候群(genitourinary syndrome of menopause:GSM)で受診するのは,婦人科がもっとも多いとの報告があります3)。分娩,特に経腟分娩や出産回数はFLUTSのリスク因子であり2),特にエストロゲン分泌の低下は,泌尿生殖器の萎縮性変化を誘発し,頻尿や尿意切迫感,夜間頻尿,尿失禁などにつながる可能性が指摘されています4)。 また,LUTSに関する疫学調査の2023 Japan Community Health Survey(JaCS 2023)1)では,40歳以上の女性の80.1%にLUTS,11.0%にOAB(過活動膀胱)があり,いずれも加齢とともに増加傾向にありました。 婦人科診療中にFLUTSを訴える患者さんは,これからも増えていくことが予想されます。頻尿や尿失禁などは生命に関わる症状ではないため見過ごされやすいですが,不安を感じ困っている患者さんは多く,治療をすることでQOL改善が見込まれ喜ばれることを心に留めておきましょう5)。