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座談会

消化管ホルモンの最前線 〜消化管ホルモンから全身を診る〜 消化管ホルモンの最前線 〜消化管ホルモンから全身を診る〜

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出席者(発言順)
猿田 雅之 先生(司会)
(東京慈恵会医科大学内科学講座消化器・肝臓内科主任教授)
坂本 昌也 先生
(国際医療福祉大学医学部教授,国際医療福祉大学三田病院
 糖尿病・代謝・内分泌内科部長)
鈴木 秀和 先生
(東海大学医学部内科学系消化器内科学教授)
北村 和雄 先生
(宮崎大学フロンティア科学総合研究センター特別教授)

猿田(司会):
今回の『消化器病サイエンス』では,数多く存在する各種消化管ホルモンの作用を,代謝病学あるいは循環器病学からなど多角的に考えながら,消化器病における新たな治療の可能性についてご専門の先生方からご意見を伺いたいと思います.

糖尿病領域の視点から

猿田:
近年の糖尿病治療でよく使用されているDPP-4阻害薬はこれまでの糖尿病治療薬とは異なる機序で,小腸から分泌されるインクレチンの分解を阻害することにより血糖の上昇を抑える作用があることから,消化器内科医も興味をもった薬剤です.坂本先生,インクレチン関連薬についてお話しいただけますか.
坂本:
インクレチン関連薬には,DPP-4阻害薬あるいはGLP-1受容体作動薬があり,最近では経口GLP-1受容体作動薬も臨床応用されています.体内に食物が入った後にインスリン分泌を促すホルモンであるインクレチンがあります.GLP-1はインクレチンの一つで,体内でDPP-4によって分解されるため,DPP-4を阻害すればGLP-1の作用の減弱を抑えることができ,インスリン分泌のはたらきを高めます.これらの薬剤は血糖依存的にインスリンが分泌されることから低血糖が起こりづらく,DPP-4阻害薬では膵保護作用もあるため初期治療薬として頻用されています.
猿田:
これまでの薬剤は膵臓を疲弊させるものが多かったなかで,膵臓の保護効果を生かしながら糖尿病の治療ができる薬剤の有用性は高いと思います.坂本先生の大学の施設では糖尿病領域と消化器領域がかかわるような研究ははじめられているのでしょうか.
坂本:
糖尿病領域では,チアゾリジン系薬剤における脂肪肝およびメタボリックシンドロームに関する研究は15年ぐらい前から盛んになっています.また糖尿病患者さんでは肝臓がんを併発していることが多いことから,がん撲滅をめざし,日本肝臓学会と日本糖尿病学会は2012年より合同で委員会を設置し,共同研究をおこなってきました.
一方,最近では腸内細菌叢との関連についてわが国の報告1)でも,便秘が糖尿病患者さんにとってリスクであるとされました.今後は大規模臨床試験やビッグデータを用いた消化器疾患と糖尿病リスクの相関についての研究が増えてくると思います.

ガストリン・モチリンとは何か

猿田:
つぎに摂食と消化管ホルモンのかかわりではモチリン,消化管運動に関してはガストリンなどがあげられます.鈴木先生,これらのホルモンの仕組みや作用機序をお話いただけますか.
鈴木:
モチリンはM細胞で産生される22個のアミノ酸からなるポリペプチドで,グレリン-モチリン関連ペプチドファミリーに分類されています.グレリンとおおよそ35~40%の割合で相同配列,類似性を有しており,消化管運動を促進する作用があると考えられています.ヒトが空腹を感じるとモチリンの血中濃度が上昇し,migrating motor complex(MMC)という収縮波が起こります.この収縮波のPhase 1から3のうち3が最も強く爆発的な収縮波で,これは空腹時に「お腹が鳴る」現象と考えられています.胃の幽門前庭部からはじまった収縮波は,回腸末端までつながります.そこで,モチリンは空腹時に摂食をはじめる前の準備段階をつくるために胃や十二指腸の食物を押し流し,完全に掃除するはたらきをします.また,ディスペプシア症状や消化管運動障害とモチリンのはたらきも大きく関係していると考えられています.
ところで,エリスロマイシンには消化管運動を亢進する作用がありますが,実はエリスロマイシンはモチリンの受容体のアゴニストなのです.つまり,エリスロマイシンはモチリンのはたらきを再現しているのです.抗菌活性をもたないマクロライドがFDや胃不全麻痺の治療薬として開発されてきましたが,臨床的有用性を示せずに現在まで製品化に至ってません.一方のグレリンは,28個のアミノ酸で構成されたペプチドホルモンで,おもに胃底腺のA-like細胞(X/A-like細胞)で産生されます.十二指腸のM細胞のなかには,モチリンだけでなく,グレリンの顆粒も入っているため,モチリンとは36%の配列類似性をもち,同一細胞に共貯留される兄弟分のホルモンであるともいわれています.
猿田:
グレリンは心臓の保護効果が期待されていましたね.
北村:
グレリンは国立循環器病研究センターで児島将康先生,寒川賢治先生が発見したもので,循環器疾患モデル動物にグレリンを投与すると血行動態を改善し心保護作用にはたらくといった研究が報告されています.循環器疾患治療薬となる可能性を示唆するデータも出ていましたが,実用化までには進んでいません.
猿田:
坂本先生はいかがでしょうか.
坂本:
インクレチン関連のGLP-1は食物の胃からの排出抑制にかかわっています.そこで消化器的に蠕動運動の抑制や遅延と,ホルモンによる中枢神経に対する食欲の伝達はどのように連関しているのでしょうか.
鈴木:
とくにGLP-1やコレシストキニン(CCK)は,胃の運動を抑制する方向にはたらきます.GLP-1には胃運動にのみならず,消化管運動全体に抑制傾向があります.抑制するというのは,胃の貯留能を促進するアコモデーションによる胃の上部の弛緩運動を抑制する,または胃の前庭部の蠕動運動を抑制する,そして小腸運動を抑制するということです.一方,その逆の作用として摂食を亢進するものがモチリンやグレリンです.胃運動,十二指腸運動は最初に食物が入ってきたらある程度消化活動をおこなって,蠕動運動で前庭部から十二指腸のほうに粥状の食塊を送り出します.それに伴い十二指腸のセンサーが反応すると,そこでGLP-1やCCKが分泌されます.それらはインクレチンとしてインスリンの分泌を促すものの,それと同時に胃運動はそろそろ止めていいというシグナルとしてのネガティブフィードバックが胃にかかることになるわけです.
坂本:
食欲の中枢神経伝達抑制は消化器のはたらきとある程度連関して起こっているものと認識してよいでしょうか.
鈴木:
そうだと思いますし,こういった腸脳相関(あるいは脳腸相関)が重要だと思います.さらに,GLP-1も含め,そういった動きの刺激が迷走神経を通じて中枢に伝わると,中枢のなかで迷走神経終末においては,レプチンを刺激することによって食欲抑制に至ると考えます.

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