日本から発信されたサイエンス
Sugimoto S, Iwao Y, Shimoda M et al:Epithelium Replacement Contributes to Field Expansion of Squamous Epithelium and Ulcerative Colitis-Associated Neoplasia. Gastroenterology 162:334-337.e5, 2022
- 杉本 真也 先生
- 慶應義塾大学医学部内科学(消化器)
- 岩男 泰 先生
- 慶應義塾大学医学部予防医療センター
- 金井 隆典 先生
- 慶應義塾大学医学部内科学(消化器)
Point
- 大腸上皮の傷害部位は,隣接する異なる性質の上皮によっても再生され上皮置換される.
- 直腸扁平上皮化は,直腸に上皮欠損を伴う慢性炎症が存在したことを示唆している.
- 潰瘍性大腸炎患者では肛門直腸移行部に注意したサーベイランス内視鏡をおこなうべきである.
Keyword
扁平上皮,潰瘍性大腸炎関連腫瘍,上皮置換,組織再生,肛門直腸移行部
目的
潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)による傷害組織の再生過程では,傷害に隣接する上皮細胞が傷害部位を被覆することで粘膜治癒に寄与している.UC関連腫瘍(UC-associated neoplasia:UCAN)は,慢性炎症によりTP53などの遺伝子変異を獲得した大腸上皮細胞から発生し,field cancerizationとよばれる領域拡大をすることが知られている.UCANは平坦な異形成病変を形成しやすく,内視鏡検査では発見が困難であることが多い1).また,正常大腸上皮とは異なる上皮が大腸に存在する一例である扁平上皮化生は,長期罹患のUC患者でまれに報告がなされている2).これら,正常と異なる上皮は,大腸内視鏡検査で直腸肛門移行部に偶発的に検出されることがあるが,どのように形成・拡大されるかは不明であった.上皮の移行帯である食道バレット上皮は発がん母地として広く認識されているにもかかわらず,UCの肛門移行帯の発がんリスクへの意識は欠如していた.本研究では,直腸扁平上皮化を伴うヒトのまれな疾患表現型に着目することで,本来と異なる上皮が傷害修復時にどのように領域拡大をしているのかを明らかにすることを目的とした.
方法・結果
われわれは最近,エチレンジアミン四酢酸(ethylenediaminetetraacetic acid:EDTA)処理と擦過を組み合わせた上皮の剝離手法によって,マウスの大腸上皮の一部を経肛門的に除去して傷害し,その部位にヒト腸管上皮オルガノイドを移植することで,上皮のみを移植上皮細胞に置換する技術を開発した3).これにより,マウス腸管内でヒトの正常大腸3),遺伝子改変人工大腸腫瘍4),正常小腸5),びまん性胃がん6)など,多様なヒト消化管組織の再構築が可能となり,新たなin vivo研究ツールとなっている.この技術開発の過程で,上皮を剝離した後に,肛門付近のもともと大腸陰窩が存在した部位が扁平上皮に置換されて再生されたマウス個体に偶然遭遇した(図❶).扁平上皮の領域は,肛門から連続して著明に口側進展していた(図❶A).この上皮は扁平上皮マーカーであるKRT5およびp63陽性であったが,再生した扁平上皮は,肛門の元の扁平上皮とは異なり,陰窩様構造を示す部分が存在した.そこで,この現象は上皮の傷害部位が肛門から遠い場合には起こらず,陰窩が完全に除去された際の粘膜傷害を修復するために,隣接する肛門由来の扁平上皮が大腸由来の単層円柱上皮と競合しながら修復する過程で,上皮置換されたのではないかと仮説をたてた(図❶B).実際にマウスにおいて,肛門から連続した上皮傷害を作成する群と,肛門から離れた上皮傷害を作成した群で前向きに検証した.すると,肛門から連続する傷害を作成した際に,扁平上皮が肛門から伸展することが内視鏡的,病理組織学的に確認できた.