聖路加国際病院内分泌代謝科,
東京医科歯科大学医学部
能登 洋
米国糖尿病学会(ADA)は毎年新春に診療ガイドライン1)を発行・無料公開している.最新のエビデンスが反映されているだけでなく,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する推奨もいち早く2021年版から記載されており,実用的な診療ガイドラインである.
一方で,エビデンスの選択基準が不明だったり,全般にわたってコストを重視することを促していながら高価な新薬の処方をアグレッシブに推奨したりするなど,推奨ポリシーの非一貫性が目立つことには注意する必要がある.
個別化した患者中心のケア重視・clinical inertia(診療の惰性)の回避が毎年強調されている.7ステップを3~6ヵ月ごとに継続的にくり返していくサイクル(図❶)に則って診療の質の向上への不断の努力をすることの重要性が示されている.
エビデンスは臨床上の方針決定の一要素にすぎず,診療ガイドラインを解釈する際には個別状況も勘案しなければならないことも明記されている.
糖尿病自己管理教育/支援に対する種々の障壁(医療費負担による服薬アドヒアランス低下も含む)の解決策として,遠隔診療やインターネットを利用したサービスも提唱されている.COVID-19パンデミック下ではいっそう利用価値が高まる可能性がある.
高齢患者については,個別化の重要性だけでなく治療薬のシンプル化も推奨されている.
個別化した目標HbA1c値設定がかねてから推奨されている(図❷).さらに,近年では自己血糖測定器や持続グルコース測定器の進化と普及,そしてそのエビデンスの増加を反映してtime in range(TIR)という指標が重視されている(目標>70%).TIRとは,経過中どの程度の割合で血糖値が理想的な範囲内に入っているかというもので,この数値が高いほど低血糖時間・高血糖時間・血糖変動が短小であり,合併症リスク低減・生命予後改善・QOL向上につながることが期待されている.今版では,低血糖頻度や重症度の指標となるtime below range(血糖70 mg/dL未満の時間が4%未満目標)の意義も強調されている.
クラウドや携帯端末機(スマホも含む)での血糖トレンド解析システムも海外では普及しており,ITとオンラインコーチングを組み合わせることの有用性が示唆されている.実際,米国ではCOVID-19パンデミックにおいても遠隔診療の活用によりHbA1cはほぼ不変と報告されている2).
最適な栄養素のバランスについてのエビデンスはないため,栄養素バランス自体よりも健康的な食事パターンが推奨されている.具体例として,地中海式食事,低炭水化物食などがあげられている.
低炭水化物食は短期間の血糖コントロールに有効だが1~2年後にはその効果は消失してしまう.また,低炭水化物食の不適例として妊婦,授乳婦,小児,摂食障害者,腎疾患者があげられており,SGLT2阻害薬服用者にはケトアシドーシスのリスクが潜在するために慎重に適用すべきことも記載されている.
肥満患者では5%の体重低下が推奨されており,体重減少のためには前述のいずれの食事パターンに優劣はなく,運動療法に加えて個別化食事パターン(栄養士の介入推奨)で摂取エネルギー低下(一般に,500~700 kcal/日削減)を達成するよう推奨されている.症例によっては減量薬や減量/代謝手術の併用も考慮すべきであることも推奨されている(日本では袖状胃切除術のみ承認されている).
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