今回のテーマは,アドバンス・ケア・プランニング(ACP)です。
アドバンス・ケア・プランニング(ACP)
患者さんが自身の価値観,人生の最終段階で希望する医療やケアについて,意思決定を行えるうちに家族・親しい友人や医療・介護従事者などと繰り返し話し合うことで共有していくプロセスを「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」といいますが,ACPには愛称があります。それは何でしょうか。次のうちから当てはまるものを1つ選んでください。
- 終活会議
- 生前意思表示
- 人生会議
- いい看取り・看取られ
- 人生心づもり
解答:3)「人生会議」
解説
アドバンス・ケア・プランニング(ACP)は,なぜ必要?
人生最期のときをどこでどのように迎えたいか――自宅あるいは病院・介護施設でも,人それぞれに「このようにしたい」という希望やイメージがあるはずです。
60歳以上の人を対象とした内閣府の調査1)によると,「万一治る見込みがない病気になった場合に最期を迎えたい場所」は自宅(51.0%)がもっとも多く,次いで病院・介護療養型医療施設(31.4%)でした。
また,平成24年の内閣府による高齢者意識調査2)で65歳以上の人に延命治療についてたずねたところ,「延命のみを目的とした医療は行わず,自然にまかせてほしい」と回答した人は9割を超えました。
しかし現実には,”自分で意思決定を行えなくなってしまったら”,望まない治療を受けざるをえなくなるかもしれません。いざ命の危険が迫ったときには,約4分の3の人が治療やケアなどについて自分で決めたり伝えたりすることができなくなるともいわれています3)。
このような場合に備え,患者意思を最大限に尊重した医療やケアの実現をめざす取り組みとして期待されているのがACPです。
ACPは,誰にとっても身近で,「自分の意思によって,希望する形で人生最期のときを迎える」ために有用な手段の一つとなりえるのです。
ACPは,医療とくに人生の最終段階での医療における患者意思尊重の流れを受け,英米諸国を中心に推進されてきました。日本においても2018年に改訂された「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」4)で概念として取り入れられて以降,厚生労働省をはじめ病院,地方自治体などにおいて,ACPについてのさまざまな啓発・普及活動が行われています。
「人生会議」は,その一環として厚生労働省が2018年に募集を行って決定した,ACPの愛称です。また,毎年11月30日(いい看取り・看取られ)を”人生会議の日”とし,人生の最終段階における医療・ケアについて話し合う日とすることも提唱されています。
糖尿病とACP
糖尿病療養中の患者さんのACPをどのようなタイミングで始めるかは,医療者・介護従事者にとって非常にむずかしい問題ですが,まずはふだんの診療や療養支援での会話を通じて,「患者さんが大切にしていることはどのようなことか」「今,心配なことや気がかりはないか」を把握することから始めてみてはいかがでしょうか。
糖尿病は,長期の療養を必要とする慢性疾患です。この療養支援の期間はACPを徐々に進めていくための期間と捉えることもできます。
患者さんとの何気ない会話から価値観の一端を知り,それを手がかりに希望する医療・ケアをイメージして患者家族や医療チームで共有していくこともACP普及につながるのかもしれません。
注)ACPは,あくまでも患者さん本人の”自発的”な気持ちから行われるべきで,強制するものではないとされています。具体的な取り組みには患者さんの意思や考え方への十分な配慮が必要です。
- 内閣府 令和元年版高齢社会白書 第1章 高齢者の状況(第3節-4)
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2019/zenbun/01pdf_index.html(2022年8月閲覧) - 内閣府 平成24年度 高齢者の健康に関する意識調査結果
https://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h24/sougou/zentai/index.html(2022年8月閲覧) - 厚生労働省 平成29年度厚生労働省委託事業 人生の最終段階における医療体制整備事業
「これからの治療・ケアに関する話し合い—アドバンス・ケア・プランニングー」
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000189051.pdf(2022年8月閲覧) - 厚生労働省 「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(平成30年3月改訂)
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000197665.html(2022年8月閲覧)
日本循環器学会/日本心不全学会 他. 2021年改訂版 循環器疾患における緩和ケアについての提言.
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Anzai.pdf(2022年8月閲覧)
人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会
「人生の最終段階における医療に関する意識調査 報告書」(平成30年3月)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/saisyuiryo_a_h29.pdf(2022年8月閲覧)
