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Basic Knowledge

「診療現場でよく耳にする言葉,きちんと説明するとなると,知っているようでよくわからない,似ているようで違いがわからない」と思ったことはありませんか。本コラムでは,糖尿病診療の現場で使われている用語とその考え方,
最新の話題についてクイズ形式でご紹介します。

今回のテーマは,クリニカルイナーシャです。

クリニカルイナーシャ

Qクリニカルイナーシャに関する記述で正しいものを選んでください。
(正解はひとつとはかぎりません)

  • 患者が積極的に治療方針の決定に参加し,その決定に従って治療を受けること
  • 治療目標が達成されていないにもかかわらず,治療が適切に強化されていないこと
  • 医療者と患者が価値観を共有したうえで,協働して医療上の決定を下すプロセス
  • 治療を緩める時期が遅れ,適切な治療の見直しが行われていないこと

A
答え:2)がクリニカルイナーシャに関する記述です。※4)はリバースクリニカルイナーシャに関する記述。

~他の選択肢~

  • 「アドヒアランス(adherence)」。患者と医療者(治療)の関係を表す概念のひとつ。両者の関係は,患者が医師の指導を遵守する「コンプライアンス」から,医療者が推奨する治療方針に患者自らが同意し,一致した行動をとる「アドヒアランス」へと変化してきました。
  • 「協働(共同)意思決定(shared decision making;SDM)」。「共有意思決定」とも訳され,患者-医療者間の合意形成手法として最近注目されています。患者と医療者が協働して患者にとって最善の治療法にたどり着くコミュニケーションのプロセスを指し,従来の医療者主導の「インフォームドコンセント」とは大きく異なります。

解説

クリニカルイナーシャとリバースクリニカルイナーシャ

 最近よく耳にするようになった「クリニカルイナーシャ(clinical inertia)」。「臨床的惰性」,「臨床的慣性」などと訳され,糖尿病領域では適切なタイミングで治療が開始されない,あるいは血糖コントロール目標が達成されていないにもかかわらず治療が強化されないことを指します。たとえば,HbA1cが目標値を超えているが,患者さんが「食事と運動,頑張ります!」と言うので処方はそのまま,といった状況が当てはまります。

 一方,あまり馴染みのない用語かもしれませんが,「リバースクリニカルイナーシャ(reverse clinical inertia)」という概念も提唱されています。血糖管理が過剰であるにもかかわらず放置していることを指します。

クリニカルイナーシャの問題点

 治療の開始・強化の遅れは長期の血糖コントロールだけでなく,合併症や生命予後にも影響を及ぼします。逆に,過剰な血糖管理を放置することは,特に高齢の患者さんに副作用の増加などの不利益をもたらす可能性があります。

 クリニカルイナーシャは医療費や副作用の懸念,時間的制約,薬が増えることへの抵抗感,チームアプローチの不足など,医療者側,患者側,医療制度上のさまざま要因によって起こりえます。イナーシャの克服は,糖尿病合併症の予防や患者さんのQOL向上,そして「健康な人と変わらない人生」の実現へ向けた重要な課題です。

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