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Basic Knowledge

「診療現場でよく耳にする言葉,きちんと説明するとなると,知っているようでよくわからない,
似ているようで違いがわからない」と思ったことはありませんか。本コラムでは,糖尿病診療の
現場で使われている用語とその考え方,最新の話題についてクイズ形式でご紹介します。

今回のテーマは、スティグマとアドボカシーです。

スティグマとアドボカシー

Qスティグマ,アドボカシーに関する記述で正しいものを選んでください。
(正解はひとつとはかぎりません。)

  • 誤った認識や情報の拡散によって差別や偏見が生じ,対象となった個人や集団が不利益を被ること
  • 「物語」を意味し,語り手が主体となって語ること
  • 「負の烙印」「社会的恥辱」を意味し,通常とは区別,軽視されること
  • 「読解記述力」を意味し,適切に理解,解釈,分析したうえで,改めて記述,表現すること
  • 「擁護・代弁」を意味し,特定の集団や取り組みを支援する活動のこと

A 答え:1)と 3)がスティグマ,5)がアドボカシーに関する記述です。

~他の選択肢~

  • 「ナラティブ(narrative)」。患者さんの病気の体験や病状の捉え方を医療従事者が聞くことで,患者さん一人ひとりに合わせた治療を行う取り組みを「物語と対話に基づいた医療(narrative based medicine: NBM)」と言います。

Greenhalgh T, Hurwitz B, eds. Narrative Based Medicine-Dialogue and Discourse in Clinical
Practice. BMJ Books. London, 1998(斎藤清二,ほか監訳:ナラティブ・ベイスト・メディスン―臨床
における物語りと対話.金剛出版,東京,2001).
斎藤清二.ナラティブ・ベイスト・メディスンとは何か,ナラティブ・ベイスト・メディスンの実践.
斎藤清二,岸本寛史.金剛出版,東京,2003, 13-36

  • 「リテラシー(literacy)」。健康や医療に関する情報やサービスを調べ,理解して効果的に利用できることをヘルスリテラシーと言います。ヘルスリテラシーは,自分にあった適切な情報を活用する,意思決定を行うために重要であり,健康的な生活を送るために役立つ能力です。

World Health Organization(1998)Health Promotion Glossary.
https://www.who.int/publications/i/item/WHO-HPR-HEP-98.1
中山健夫. EBMの普及と医療リテラシー:情報と医師患者コミュニケーション. 日内会誌 2012; 101: 3600-6

 スティグマ(stigma)とアドボカシー(advocacy)は,糖尿病領域でいま注目されているテーマの一つで,関連学会の学術集会でも大きく取り上げられています。糖尿病をもつ人と医療従事者との間で,糖尿病に対するスティグマの現状や体験を共有し,社会に周知することで,差別や偏見を取り除くアドボカシー活動が行われています。糖尿病をもつ人が,疾患を理由に不利益を被ることなく,治療の継続により糖尿病のない人と変わらない生活を送ることができる社会づくりを目指しています。

糖尿病のスティグマ

 糖尿病に対する誤った認識によって糖尿病があるために,受験,就職,昇進に不利になる,結婚の障壁となる,生命保険に加入できない,住宅ローンを組めない,などライフイベントごとにスティグマを体験されている方がいます。

 糖尿病のスティグマを放置すると,患者さんは社会からの疎外を感じ,自尊感情の低下(セルフスティグマ)から,糖尿病であることを周囲に隠すようになる場合もあります。そのため,適切な治療の機会を失って重症化し,QOLの低下を招き,精神・社会・経済などで不利益を被ることになります。

日本糖尿病学会,日本糖尿病協会. アドボカシー委員会設立.糖尿病であることを隠さずにいられる社会づくりを目指して.
https://www.nittokyo.or.jp/uploads/files/PR54_advocacy.pdf 日本糖尿病協会. アドボカシー活動 https://www.nittokyo.or.jp/uploads/files/advocacy_summary.pdf

医療従事者とアドボカシー活動

 診療現場で用いられる言葉の重要性が認識されています。医療従事者と患者さんは上下関係になりやすいことから,新しい関係性の構築が求められています。医療従事者による思い込みや,患者さんのために考えて話した言葉がスティグマとなって,かえって患者さんを傷つけてしまうことがあります。たとえば,「何を食べたの?」「運動をしていないですよね」「薬をきちんと飲まないと大変なことになりますよ」など生活習慣を見直すきっかけのつもりで話した言葉が「否定」「脅し」と受け取られ,セルフスティグマを生む可能性もあります。

 セルフスティグマを乗り越えるのは患者さん本人です。医療従事者は,一人ひとりに寄り添い,意思決定の際にはともに考え,支援することで患者さん本人がセルフスティグマを乗り越えるようにすることが大切です。

日本糖尿病学会,日本糖尿病協会. アドボカシー委員会設立.糖尿病であることを隠さずにいられる社会づくりを目指して.
https://www.nittokyo.or.jp/uploads/files/PR54_advocacy.pdf 日本糖尿病協会. アドボカシー活動 https://www.nittokyo.or.jp/uploads/files/advocacy_summary.pdf

 スティグマ払拭のための支援,アドボカシー活動では,医療従事者が正しい知識をもって,糖尿病に対する差別や偏見が不当であることを周囲や社会に発信していくことが必要です。

 日常診療から始められるアドボカシー活動として,診療現場で使われてきた用語の見直しが検討されています。たとえば,「患者」「糖尿病患者」は「糖尿病をもつ人」,「指導」は「支援」のように,ネガティブな表現や上下関係を連想させる用語を使わないようにする対応が考えられています。

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