今回のテーマは,「サルコペニア(sarcopenia)」です。
サルコペニア
サルコペニアに関する記述で正しいものを選んでください。
- 運動器の障害のために移動能力が低下した状態
- 骨格筋量が減少し,筋力や歩行速度などの身体機能が低下した状態
- 骨格筋量の減少はないが,骨格筋の質と筋力が低下した状態
- 慢性消耗性疾患を基盤として食欲低下,体重減少,体脂肪量減少を主徴とする病態
答え:2)
~他の選択肢~
ロコモティブシンドローム(ロコモ)
日本整形外科学会が提唱した言葉で,主に日本国内で使用されています1)。要介護リスクが高まる運動器(筋肉,骨,関節など)障害の早期発見・治療の重要性を周知するために,親しみやすい略称として「ロコモ」が選ばれました。サルコペニアは,ロコモの原因の一つです。
2022年日本医学会連合は,健康寿命の延伸を目的として「フレイル・ロコモ克服のための医学会宣言」,80GO(ハチマルゴー)運動を提唱しています2)。
フレイルは,加齢に伴い心身の機能が低下し,ストレスに対する脆弱性が進んでいる状態のことをいいます。これは身体的,精神・心理的,社会的側面を含む包括的な概念で,この身体的フレイルのなかにロコモやサルコペニアも含まれます。
ダイナペニア(dynapenia)
ダイナペニアもサルコペニアと同様に「骨格筋の質的低下と筋力が低下した状態」ですが,ダイナペニアでは骨格筋量の減少はみられません。
カヘキシア(悪液質)
サルコペニアでは一般的に食欲低下や体重減少はみられませんが,カヘキシアでは骨格筋萎縮による筋量減少,筋力低下とともに食欲低下や体重減少もみられます。
カヘキシアの原因となる慢性消耗性疾患には,がん,慢性感染症,慢性心不全,慢性腎不全,慢性閉塞性肺疾患,慢性肝不全などがあります。
解説
サルコペニア,骨格筋からみた糖尿病
サルコペニアは,骨格筋の量・力・機能という3つの指標で判定します。「加齢性筋肉減少症」と訳され,提唱された当初は加齢に伴う骨格筋量減少が重視されていましたが,最近では骨格筋の質的低下や筋力低下,立つ,歩くための身体機能の低下がより重要と考えられています。
骨格筋はインスリンが作用する主な臓器の一つで,血糖を利用する最大の器官です。最近では運動時にさまざまな生理活性物質(マイオカイン)を分泌することもわかってきました。
加齢による骨格筋の変化として,速筋線維の割合が減少し,骨格筋内への脂肪浸潤(霜降りのような状態)がみられるようになります。これにより,骨格筋の質・力・機能が低下3)し,インスリン抵抗性につながります。骨格筋におけるインスリン抵抗性は,糖尿病を悪化させる可能性があり,サルコペニアと糖尿病の合併は病態の悪循環を形成すると考えられています。2型糖尿病患者では非糖尿病患者よりもサルコペニア有病率が高く4),サルコペニア合併糖尿病患者の特徴として高齢,BMI低値,体脂肪量が多いことが報告されています5)
サルコペニア肥満
サルコペニア肥満(sarcopenic obesity)は,サルコペニアと肥満を合併した病態をいいます。サルコペニア患者の多くは低体重であるため,肥満とサルコペニアの両方の診断基準を満たす者は少ないと考えられています。サルコペニアの主な対象である高齢者の体重減少は,体脂肪量の減少よりも,むしろ除脂肪体重(骨格筋量)の減少を反映しています。高齢者はBMI低値よりBMI高値で死亡リスクが低くなる「肥満パラドックス」がみられる場合があります。
2023年3月現在,日本サルコペニア・フレイル学会と日本肥満学会による「サルコペニア肥満合同ワーキンググループ」において,サルコペニア肥満の定義・診断基準,診断方法などが検討されており,その発表が待たれます。
- 日本整形外科学会.ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト.
https://locomo-joa.jp/(2023年2月閲覧) - 日本医学会連合.フレイル・ロコモ克服のための医学会宣言.
https://www.jmsf.or.jp/activity/page_792.html(2023年2月閲覧) - Yamada M, et al. J Am Med Dir Assoc 2017; 18: 807.e9-807.e16.
- Anagnostis P, et al. Calcif Tissue Int 2020; 107: 453-463.
- Izzo A, et al. Nutrients 2021; 13: 183.