今回のテーマは,血糖コントロールの評価指標です。
血糖コントロールの評価指標
血糖コントロール評価指標の説明として正しいものを選んでください
(正解はひとつとはかぎりません)。
- HbA1cは採血当日の食事や運動等の影響を受けるため,外来で長期の食事療法の効果をみる場合の血糖評価指標には適さない。
- MAGE(mean amplitude of glycemic excursion)は血糖値の日内変動指標の1つで,平均血糖の影響を受けない。
- TIR(time in range)は, 持続血糖モニタリング(continuous glucose monitoring:CGM*)のデータから得ることができる新しい血糖評価指標の1つである。
答え:2),3)
~他の選択肢~
- HbA1cは採血当日の食事や運動等の影響を受けません。そのため,2~3ヵ月に1度など,長期的に食事療法の効果をみる評価指標としては最も適しています。設問にある「採血当日の食事や運動の影響を受ける血糖評価指標」は,尿糖です。
解説
定点把握から見える化へ
日本では血糖コントロールの評価指標として,長らくHbA1cと空腹時血糖値が中心とされてきました。しかし近年,これらに加え,デバイス装着により血糖値を持続的に測定するCGMやFGM(flash glucose monitoring)を活用して低血糖や食後高血糖といった血糖の変動もみることが重視されるようになり,血糖値をより詳細に把握した上での治療が求められています。
血糖変動をみる手段としては,1日数回患者自身が指先から採血する血糖自己測定(SMBG)がありますが,CGMやFGMはSMBGでは測定できない早朝・夜間や無自覚性の低血糖、食直後の高血糖を把握することができ,24時間の血糖変動を見える化できるようになります。
現時点での主な血糖コントロールの評価指標には次のようなものがあります。
●血糖コントロール指標の分類
- グリコヘモグロビン(HbA1c):採血時を起点として過去2~3ヵ月間の平均血糖を反映。成人糖尿病患者の合併症予防のための目標値は,<7.0%(ハイリスク症例,妊娠例は除く)。
- グリコアルブミン(GA):採血時を起点として過去2~4週間程度の血糖状態の平均を反映。アルブミン量は血糖値に相関するため,血糖値が低いとGA量は減少、高ければGA量は増加。基準値は11~16%。
- 1,5-アンヒドログルシトール(
1 ,5-AG ) :採血時を起点として過去数日間の血糖状態を反映し、特に食後高血糖の存在を確認するのに有用。本来は食品に含まれている物質で,尿糖と一緒に排泄される。尿糖が出るほど1,5-AG量は減少するため,1,5-AGの数値が低いほど血糖コントロールの状態が悪いことを示す。基準値は14μg/Ml以上。
日内変動
- SD(standard deviation, 標準偏差):1日(24時間)の中の血糖値のばらつきを示す,血糖変動の代表的な指標。
- MAGE:1日(24時間)の中の平均血糖変動幅を示す指標。1日の中での血糖のピーク値と最低値の差が1SDを超える大きな血糖変動幅の平均を表す。持続的な血糖変化をとらえるのに適する。
- TIR:2019年に米国糖尿病学会で「血糖管理目標に関する国際的なコンセンサス」として発表された1)血糖評価の指標。14日間を1サイクルとして24時間の血糖変化の目標範囲を70~180 mg/dLとし,血糖値がこの範囲内に収まった時間の割合(またはこの範囲内での測定回数の割合)で表す。
2型糖尿病の目標値は,TIR >70%。TIRより低血糖状態である時間の割合はTBR(time below range),逆に高血糖である割合はTAR(time above range)として表される。
得られたデータを個別化治療に生かす
CGM/FGMにより連続的に血糖値を把握する動きが加速した背景の1つに,近年の技術進歩と保険適用の拡大2)があります。
日本国内においてもCGM/FGMから得られる評価指標について合併症の発症・進展抑制における有用性やCGMが有用な患者特性を検討する報告が登場しています3-6)が,重要なことはCGM/FGMから得られたデータをいかに治療に生かしていくかということ。患者個々で異なる低血糖や高血糖の状態に即した治療を提供し,患者予後の改善に寄与できるかが問われています。
- Battelino T, et al. Diabetes Care 2019; 42: 1593-1603.
- 日本糖尿病学会.リアルタイムCGM適正使用指針
(2022年12月1日改訂)(2023年1月閲覧) - Wakasugi S, et al. BMJ Open Diab Res Care 2021; 9: e001923.
- Wakasugi S, et al. Cardiovasc Diabetol 2021; 20: 15.
- Taya N, et al. Cardiovasc Diabetol 2021; 20: 95.
- Yoshii H, et al. J Clin Endocrinol Metab 2022; 107: e3990-4003.