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高齢透析患者の栄養管理

前野 七門 先生 医療法人仁楡会 仁楡会病院 副院長 北海道透析療法学会 会長
低栄養が生命予後に悪影響を及ぼすことが明らかになる中、低栄養になりやすい要因を抱える透析患者、特に高齢透析患者に対する栄養管理は必要不可欠な対策となっています。そして、低栄養の早期発見・早期介入の要となるのは透析室の看護師です。早くから透析患者の栄養管理に組織的に取り組んでいる仁楡会病院副院長の前野七門先生に、同院の実践を通し高齢透析患者における栄養管理のポイントについて伺いました。

透析患者は低栄養になりやすく
高齢者への栄養管理が欠かせない

わが国における透析医療のパイオニアの一人である故・大平整爾先生は、良質な透析ライフを保証するための基本項目として「患者による透析医療の受容」、「適正十分な透析」、「日常的な身体的活動」、「心の活動度(好奇心の保持)」とともに「望ましい食生活」を上げ、早くから栄養管理の重要性を指摘されていました。

そもそも透析患者は、透析治療による栄養素(アミノ酸、水溶性ビタミン、ミネラルなど)の喪失、エネルギーやたんぱく質の摂取不足といった要因を抱えており、低栄養になりやすい状態です。こうした低栄養の状態は、サルコペニア(筋肉量の低下)→フレイル(虚弱状態)→ADL(日常生活動作)低下→食欲不振→寝たきりといった負の連鎖を招き、生命予後にも深刻な影響をもたらします1)。高齢により病態が進むこと、後期高齢者の透析導入が年を追うごとに増加していることを考えると、低栄養のリスクは一層高まっており、高齢透析患者に対する栄養管理が欠かせないといえます。

一方で、北海道高齢者透析研究会が2017年に道内59施設の透析患者2,339名を対象に実施したアンケート調査では、病院やクリニックで定期的に栄養指導を受けている人は全体の約12%(297名)に止まり、約70%(1,649名)は、栄養指導を受けたのが透析導入時のみという結果になりました。この調査から、透析医療の現場では十分な栄養管理が行えていない状況が推測されます。

貧血のある高齢女性患者は
体重減少と低栄養のリスクが高い

仁楡会病院では以前から透析患者の栄養管理に取り組んでおり、近年は高齢透析患者の低栄養の早期発見と早期介入に注力してきました。低栄養ハイリスク者の検討を行うにあたり、今回着目したのが体重減少です。今回はフレイルの診断基準として一般的に用いられている「Friedらの身体的フレイルの診断基準(CHS基準)」の評価項目「体重減少(過去1年で約4.5kgまたは前年体重の5%以上の減少)」を参考にしました2)

2018年1月から2019年1月までの1年間、当院の外来透析患者94名を対象に体重変化の追跡調査を実施し、年代別に59歳以下、60~69歳、70~79歳、80歳以上の4群に分けて体重変化率を比較したところ、80歳以上群で明らかに体重が低下していることがわかりました()。

次に、年間約4.5kgまたは前年体重の5%以上の体重減少を引き起こす関連因子を見つけるために、16項目(年齢、性別、透析歴、独居、通院介護必要性の有無、要介護度、5秒片足立ちの可否、病院食利用、透析間体重増加率、Hb、リン値、TIBC、アルブミン、KT/V、nPCR、クレアチニン産生率)について検討を行いました。その結果80歳以上群での関連因子は性別、要介護度、Hbの3項目でした。ごく少数例の検討ではありますが、要介護者ではリスクが高まり、特に女性で貧血があるときは体重減少に注意する必要があることが示唆されました()。

図:仁楡会病院 外来透析患者の体重変化率
表:年間4.5㎏以上/5%以上の体重減少に関連する因子(Spearmanの順位相関係数)

薬剤を積極的に使い
しっかり食べることを優先する

一方、実践的な栄養管理対策として当院では、透析室の担当看護師、臨床工学技士または主治医が個々の透析患者に対し、食生活の状況を定期的に聞き取っています。そして①透析間の体重増加が極端に減った、②血清リン値が急速に低下した、③低ナトリウム・低カリウム血症が出現した、④食欲不振のうち、いずれかに当てはまる場合は低栄養のハイリスク者とみなし、回診時や週1回行われる多職種合同カンファレンスの場で具体的な対策について話し合います。

高齢透析患者においては、食事をしっかり食べて十分な透析治療を行うことが重要です。食事が十分摂れていれば薬剤でリン値をコントロールしますが、食事が摂れない場合は食事制限を解除し食べることを優先します。場合により患者さんに「何でも好きなものを食べて下さい」とお話しします。

また、摂食不良時には透析中にアミノ酸・脂肪製剤を投与するとともに、その人の食事量に応じて低カリウムの経口栄養補助剤を加えることもあります。常用薬が食欲不振を引き起こしていると考えられる場合は、食欲が回復するまで薬剤を可能な限り減らします。胃がんや大腸がんなどの消化器疾患が食欲不振の原因になることもあるので、必要に応じ消化器内科で精査してもらうことも大切です。

前述のスクリーニング4項目に加え、アルブミンの低下がみられるときは、ダイアライザーや透析モードの変更など透析条件の見直しも行っています。

高齢透析患者の栄養管理には
生活全体を支援する視点が必要

このような対策に加え、個別の食事指導も欠かせません。その際には、野菜が好きな人には低カリウム野菜を提案するなど、患者さんの食欲を引き出すような工夫を心がけることが大切です。看護師による食事指導で改善しないときは、食事調査を行った上で院内外の栄養士と連携することが求められます。

また、栄養管理はその人の生活の上に成り立っているため、特に高齢透析患者の場合は食事だけでなく、生活全体に目配りする必要があります。個人の価値観・希望を尊重しつつ、どのような社会資源をどのタイミングで使うかといった判断や支援が必要となります。認知症を有する独居患者が、施設入所後に栄養が十分に摂れるようになり、それに伴って透析の状態も安定してきた症例もみられるなど、社会資源を利用したサポートは低栄養の改善に確実につながっていると感じています。当院では5年ほど前から医療ソーシャルワーカーも加わり、積極的な介入を心がけております。

透析中に栄養のある食事を提供し、運動リハビリを行うのが理想的ですが、高齢透析患者は合併症も多く、誤嚥のリスクもあり安全確保に注意が必要です。まず日常の食事がしっかり摂れるように支援することが大切だと思われます。看護師を中心にスタッフ全員で患者さんの食事状態を定期的に確認する体制を構築し、低栄養の早期発見に努めることが重要です。

1)
Xue QL, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 63: 984-990, 2008.
2)
Fried LP, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 56:M146-156, 2001.

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