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患者が主体的に取り組む透析へ/希望の透析方法に柔軟に対応し、支える

透析施設では週3回・1回4時間の血液透析が標準的として行われています。それに対し、坂井瑠実クリニック理事長の坂井瑠実先生は「1週間168時間働いている腎臓の代わりを、わずか週12時間で行うのは無理がある」として、在宅透析をはじめ、さまざまな透析方法に取り組んできました。今回は「透析時間や回数は、患者さんが自分の状態に合わせて決めるべきもの、透析に主体的に取り組むことで、生活の質は向上する」とする坂井先生に、患者主体の透析をどう実践するかを伺いました。
坂井 瑠実 先生
医療法人社団 坂井瑠実クリニック 理事長

週3回・1回4時間の透析量は黎明期水準で、
何とか生命を維持できるレベルの透析量である。

日本透析医学会の『わが国の慢性透析療法の現況(2018年12月31日現在)』によると、わが国の血液透析患者数は年々増加して約34万人に達し、平均年齢も上がり続け68.75歳となりました1)。日本の透析患者さんの生命予後は世界一といわれますが、透析導入後の平均余命は一般人の半分以下とされています2)。透析技術も機器も薬剤も進歩しているのに、患者さんは長生きできていないのが現実です。

私は、透析量の不足がその要因であり、それは透析時間が短いことに起因すると考えて、長年にわたり透析時間を長くする取り組みを続けてきました。日本の血液透析は週3回・1回4時間以上が推奨されており3)、『わが国の慢性透析療法の現況』では、施設血液透析での1回の透析時間は、4時間から4時間半の割合が70%以上を占めています1)。しかし1週間に168時間働く腎臓の代わりを週12時間ほどで行っても、厳重な食事管理の上で何とか生命を維持できるレベルの透析量しか確保することができません。海外では週3回・1回8時間など、日本の倍の時間をかけている施設もあります。

透析の黎明期には、維持透析は週2回・1回8~10時間をかけて行っていましたが、水分制限は極めて厳しいもので、あくまで患者さんの生命を維持できる最低の水準でした。その後の透析膜や透析装置の進歩に伴い、週3回・1回5時間、4時間で同じ透析量を確保できるようになったものの、透析量自体は、何とか生命維持ができる黎明期の水準からそれほど増えているわけではないのです。

私たちの体のコンディションが、年齢、体重、腎機能、活動量、食事、生活スタイルなどにより日々変化するのと同様に、患者さんの状態も一人ひとり、日々異なります。それなのに、決まった受診日、決まった時間のルーティンでの透析は、患者さんの体に負担をかけ、食事制限のために体力は奪われていきます。それを防ぐには週3回・1回4時間の透析を考え直す必要があります。

長時間透析には多くのメリットがあり、
体調の良さに患者はすぐに気づくものである。

私は、透析患者さんが普通に暮らしていけることが望ましいと考えています。そのために一番大切なのが、十分な透析量を確保することです。坂井瑠実クリニックを開設して以来、透析量を十分に得るために、透析時間を長くする、透析回数を増やすなどさまざまな工夫をしてきました。在宅透析、週4回透析、隔日透析、1回6時間以上の長時間透析、オーバーナイト透析などです。

透析量を十分確保することにより、“透析不足による合併症”である高血圧、貧血、掻痒感、色素沈着、骨・関節痛など()が解消でき、それに伴って合併症の治療薬を減薬できます。患者さんも、長時間透析を行うと、顔色がよくなる、透析直後でも元気に帰宅できる、すぐに活動できるなどの変化に気づき、長時間透析のよさを理解してくれます。

透析が長時間に及ぶことに対し、最初は尻込みする患者さんも少なくありませんでした。そのような患者さんには「だまされたと思って3ヵ月やってみてください」と呼びかけます。3ヵ月経てば体調の変化が実感できますから、自分から透析時間の延長を求めるようになります。また、長時間透析だと日常生活の時間が短くなってしまうと言う患者さんもいます。確かに透析時間は長くなりますが、透析後の体調がすぐれず、帰宅後に横になってしまうようなら同じことで、「その時間を透析に充てていると考えてみてはどうでしょう。体調もよくなりますよ」と説明しています。

最近、長時間透析に慣れた患者さんが、透析時間を短縮するとさまざまな合併症が出てくることを経験しました。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、クリニックでは1ヵ月間だけオーバーナイト透析を中止したのです。週あたり6時間の短縮でしたが、患者さんは血圧上昇、足がつる、痒みなどを訴え、早く元の時間に戻してほしいと訴えてきました。患者さんが自分の体調を把握した上で、長時間・頻回透析の意義を十分に理解していたことを実感しました。

透析方法は患者自身が決めるもので、
前向きに透析に取り組む動機にもなる。

表:透析患者に現れる症状

透析の時間や頻度は患者さん自身が、自分のコンディションや生活スタイルに合わせて決めるべきものと考えています。例えば1時間当たりの除水量は、医師が決めた最大量の中から患者さんが決定するのです。時間に余裕のある高齢者なら、時間当たりの除水量を減らして、透析時間を長くするという選択ができます。仕事をしている方なら、仕事に支障が出ないようオーバーナイト透析を選ぶこともできます。このように患者さんが自分の食事、体調、生活スタイルなどを考慮して透析を選択することで、透析に前向きに取り組むようになります。自分が決めたことですので納得がいき、しっかり守ろうとします。

施設側にもメリットがあります。患者さんの体重がいつもより大幅に増えていると、透析スタッフはつい「なぜそんなに食べたのか」「なぜ水を飲みすぎたのか」と問い詰めてしまうことがあります。4時間の透析では十分に除水できない、透析の途中で具合が悪くなるのでは、などと考えてしまうからです。しかし、患者さんが自分の生活やコンディションに合わせた透析方法(透析頻度、時間)をリクエストし、それにスタッフが応えていけば、患者さんとの衝突などのストレスの軽減につながり、患者さんとスタッフがよい関係を築いていく基礎となります。

もちろん、患者さんのリクエストに応じて透析頻度や時間を決めていくと、1日2クールあるいは3クールといった決まった回数の透析はできません。坂井瑠実クリニックでは1透析室1日1クールとしていますが、これは透析施設の経営的な問題にも直結します。例えば隔日透析を実施すると、スタッフの日曜出勤が必要となり、その人員確保、設備稼働のコストが増えていきます。オーバーナイト透析であれば当直のスタッフが必要ですし、在宅透析に対応するには、緊急時に対応できるよう医師、看護師、臨床工学技士などのオンコール体制を組む必要があります。

それでも私が長時間透析を実施するのは、透析患者さんが自立した普通の生活を送ってほしいと願うからです。治療を続ける患者さんは、誰よりも透析のことを知っている透析のプロです。患者さんが透析に主体的に取り組み、自分の生活の中に透析をどう組み込むかを決める。そのために、患者さんが透析方法を自由に選べるように、透析施設が柔軟に対応し、支えていくことが求められます。透析患者さんが元気で合併症が少ない生活を送り、生活の質を保つことができるよう、隔日透析、週4回透析、オーバーナイト透析、在宅透析など、長時間透析が少しでも普及することを願っています。

1)
透析会誌. 52:679-754,2019.
2)
日本透析医学会. 図説 わが国の慢性透析療法の現況. 2005年12月31日現在
3)
透析会誌. 46:587-632,2013.

※感染対策を行い取材しました(2020年7月)。

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