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福岡県の実態調査から見えてきた介護施設との連携のあり方

村石 昭彦 先生 日本透析医会 介護保険委員会委員 福岡県透析医会 理事・介護保険委員長 村石循環器科・内科 理事長・院長
高齢化を背景に透析患者の通院問題が深刻化する中、介護施設に対するニーズが高まり、緊密な連携が求められています。半面、現場では介護施設との連携のあり方について大きな戸惑いもあります。そこで、長年にわたり透析患者の介護問題に取り組んできた村石昭彦先生に、福岡県透析医会・日本透析医会が実施した調査から明らかになった介護施設の意識や実態をもとに、透析室の看護師に期待される役割、介護施設への働きかけ、対応のポイントなどについて伺いました。

深刻化する透析患者の通院問題を背景に
介護施設へのニーズが高まる

要介護状態の高齢透析患者の増加が全国的な課題となる中、福岡県透析医会が2014年から実施してきた大規模実態調査においても、75歳以上の透析患者の約2人に1人が要介護認定を受けていることが判明しています1)。こうした影響を強く受け、深刻化しているのが通院問題です。この調査では75歳以上の独力通院率が50%以下となっており1)2)3)、患者さんの多くは透析施設の送迎支援に頼っているのが実情です。しかし、介護度が上がるにつれこの支援が受けられなくなり、介護タクシーに移行した後、ついには通院困難となり、有料老人ホームをはじめ介護施設への入居を余儀なくされています。このような転帰をたどる高齢透析患者は決して少なくなく、それはこの実態調査においても、自宅外居住を選択した理由として「通院困難」が最も多くなっている3)ことからも明らかです。

こうした背景のもと、高齢透析患者の“終の住処”として介護施設の重要性が高まっています。しかし、入居の受け入れは進んでおらず、行き場を失った高齢透析患者の対応に苦慮している透析施設も多いことでしょう。日本透析医会介護委員会は、介護施設が抱く不安や諸問題を理解し介護と医療の連携改善を図る目的で、2018年に「介護関連入居施設側からみた透析患者や透析医療に関する意識および実態調査」を行いました4)。これは福岡県の介護施設2418(特別養護老人ホーム、老人保健施設、介護療養型医療施設、有料老人ホーム、認知症グループホーム、サービス付き高齢者住宅など)を調査対象としたもので、回答率は全体の79.2%に達しました。

調査地域が限定されているものの、福岡県は都市部と地方の構成、透析患者の経済状況、要介護者の背景など、さまざまな要素において全国の平均値を示しており、この結果は多くの地域に共通するものであると考えています。そこで本稿では、この2018年の調査から明らかになった介護施設の意識や実態をもとに、透析施設のスタッフ、特に看護師に求められる役割や、介護施設への働きかけ、対応のポイントなどについて検討してみたいと思います。

透析医療の啓発の場を活用しながら
介護施設との連携に取り組む

今回の調査では「介護施設の経営母体が透析医療を行っている場合、施設の種別や立地にかかわらず受け入れ経験が多い」という興味深い結果が出ています4)。このデータから推測されるのは、介護施設側が透析医療に関する知識を持っておらず、そのことによる不安や怖れが強いと高齢透析患者の受け入れが進まないということです。「知らないから怖い→怖いから受け入れない→受け入れないから経験が積めない→経験が積めないからさらに怖い」といった負のスパイラルに陥っていると考えられます。

一方で、受け入れ経験や受け入れ要請の有無にかかわらず、多くの介護施設が透析医療に関する勉強会や講演会、見学会などに参加してみたいとの意向を示していることも明らかになっており4)表1)、この点について見逃すことはできません。表面上は関心がないように見えても、透析施設側から積極的にアプローチすることによって、介護施設の扉が開かれる可能性があるからです。地域における啓発活動は、ますます欠かせないものになっていくことでしょう。

当院では地域の介護施設と “顔の見える関係”を作り上げることを重視しているため、受け入れのない介護施設に対しても、透析室の師長や主任看護師が訪問し、透析医療や透析患者の状態について説明しています。特に受け入れを進めるうえで“キモ”となる情報は、①介護施設に求められるサポートは一般家庭で透析患者に行われているものと基本的に同じであり、そう難しくない、②生命予後は非透析高齢者とほぼ変わらないといったことなので、これらの情報については正しく理解してもらえるよう努めています。

同時に、訪問先の介護施設の受け入れ体制、介護スタッフの能力、受け入れの経験などについても確認しています。同じ「受け入れ可」であっても施設のタイプの違いや受け入れ能力によって、どのような患者を受け入れてもらえるかは異なるためで、この確認は患者を安心して託すうえでも、また安心して受け入れてもらううえでも必須だと考えています。将来の受け入れに備え、啓発活動の場を活用しつつ、普段から介護施設との連携をはかることが大切です。「介護施設を訪問するのはハードルが高い」と感じるのであれば、勉強会や講演会、見学会の開催から始めてみるのもよいでしょう。

相談しやすい環境を整備し
問題には全力で向き合い成功体験を

この調査では、透析施設に対する不満の声も数多く挙がっており、ここから透析施設が認識していなかった問題点がたくさんあることが見えてきました4)表2)。なかでも体調が悪化した際の対応をはじめとする医療面でのサポートでは不安が大きく、「患者を丸投げされている」と感じている介護施設も少なからず存在しました。また、透析施設との連携がうまくいかなかった介護施設では「将来的に積極的に受け入れたい」とする割合が減り、「現状では受け入れは難しい」と回答する施設が多くなっていることも判明しています。

こうした状況に陥らないために、介護施設との連携において留意すべきポイントがいくつかあります。まず高齢透析患者を初めて受け入れてもらう場合は、前出の訪問リサーチにもとづき、受け入れ先の介護施設が対応できるレベル(状態・状況)の患者をしっかり選びます。受け入れ後は「困ったことはありませんか」と定期的に電話をかけ、“何でも相談してもらえる関係”を日頃から作っておくことが肝心です。介護施設は透析施設に対して敷居が高いと感じているので、透析施設側から積極的に働きかけていきましょう。

これらの対策により、問題が起こったときも早めに気づきサポートすることが可能になります。それは介護施設に「思ったほど大変ではなかった」という成功体験をもたらし、継続した受け入れにも確実につながっていきます。ときには力不足で対応しきれないケースもありますが、全力で向き合うことが介護施設との信頼関係を育み、次の患者への受け入れに生きてくるのです。

全国の透析患者数(約33万人)5)から介護施設に入所が必要な高齢透析患者数(全体の4~5%)を割り出すと、1万5000人前後です。透析施設は4500軒ほどですので1透析施設あたり3~5ヵ所の介護施設と連携すれば高齢透析患者の受け入れ問題は解消されると個人的には試算しており、それぞれの施設がこの件数をクリアするのは難しくないと考えています。地域連携の担い手としての期待が高まる看護師には、今回の調査結果を通して介護施設の意識と実態を理解したうえで、その声を日頃の連携に役立てていただくことを願っています。

表1:勉強会、講演会、見学会に関する意識
表2:透析施設との連携に関する介護施設からの声
1)
福岡県における高齢透析患者の介護関連実態調査報告-2014年2月現在. 日透医誌. 30: 108-121, 2015..
2)
福岡県における高齢透析患者の介護関連実態調査報告(第3報)-2年間の予後および要介護度変化等に関する調査(2016年2月現在). 日透医誌. 32: 243-254, 2017.
3)
福岡県における「自宅以外で居住する透析患者」の実態調査報告 (2017年4月現在). 日透医誌. 33: 256-262, 2018.
4)
介護関連入居施設側からみた透析患者や透析医療に関する意識および実態調査-2018年8月現在. 日透医誌. 34: 215-228, 2019.
5)
わが国の慢性透析療法の現況(2018年12月31日現在). 透析会誌. 52: 679-754, 2019.

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