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ともに歩む透析医療
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透析患者の食事指導の悩みを解決!〜ひとつひとつスタッフの知見を持ち寄って〜

小池 鈴華 先生/医療法人社団永進会 聖蹟桜ヶ丘じんクリニック 院長
菅野 義彦 先生/東京医科大学病院 副院長/腎臓内科 主任教授
透析患者の食事指導の難しさは、古くて新しい問題です。近年は、サルコペニア・フレイル予防のために高齢者こそたんぱく質をしっかり摂ることが推奨されています。今回は「透析患者の食事指導の悩みを解決!」をテーマに、透析患者の食事指導に熱心に取り組んできた東京医科大学の菅野義彦先生と、透析現場で日々、患者やスタッフとコミュニケーションを取りつつ食事指導を行っている聖蹟桜ヶ丘じんクリニックの小池鈴華先生に、具体的な場面を想定し問題の解決法を話し合っていただきました。

医療者も患者も“食べない”文化
フレイル予防のためにもよく食べる習慣を

菅野 透析患者に対する食事指導は、透析の効率が悪い時代、また、若くて食欲が抑えられない患者さんが多かった時代の指導が50年近く引き継がれてきました。臨床現場のほとんどの職種が栄養学をきちんと学んでいないため、on the job trainingの形で“食べない”方針で患者さんを指導してきたのです。近年になって徐々に患者さんの年齢が上がり、サルコペニア・フレイルという問題が出てきたにもかかわらず、長い間、保存期で食事指導を受けてきた患者さんは、たくさん食べることに罪悪感があり、透析現場には“食べない”文化が定着しています。

ようやく近年、透析患者さんのサルコペニア・フレイルを予防するために食事療法が大きく変わりつつあり、現場にも浸透してきました。その辺りを含めて、透析現場の最前線に立つ小池先生と話し合っていきたいと思います。

小池先生の施設の透析患者さんは何人ですか。

小池 聖蹟桜ヶ丘じんクリニックの患者さんは約30人です。若い方は少なく、一番若い患者さんで35歳が1人、ほとんどが60歳以上で、70歳代、80歳代が多くを占めます。

菅野 具体的にはどのような食事指導をしていますか。

小池 標準体重から割り出されるカロリー量を提示しています。水分に関しては尿量+500mLで1日量を換算します。塩分は原則的に1日6g以下としています。

菅野 提示したカロリーや食塩、たんぱく質と、実際がどれくらい違っているか調べていますか。

小池 週3回の透析時に聞き取りをしますが、大雑把でわからないので、最近は「食事の写真をスマートフォンで撮影してください」とお願いして、写真でだいたいどれくらいかを判断しています。ただ、なかなか写真が提出されてこない場合もあるので、もう少し働きかけたいと思っています。

菅野 私もそうですが、何を食べたか全部把握されるのは恥ずかしいという気持ちもあるので、体重や他の検査値である程度把握するしかない場合もありますね。管理栄養士はどうかかわっていますか。

小池 当院では管理栄養士さんに依頼して栄養管理を行っています。食事量が守れない患者さんや、リンやカリウムの数値が高い方に対して、30分以上かけて栄養状態や食事管理について調査しています。おっしゃるように食事の調査が難しい場合は、検査データを基に患者さんとお話をしています。

菅野 それはいいですね。この4月から管理栄養士による栄養情報提供に保険点数がつきました。病院間、特に導入病院と維持クリニックで食事に関するスタンスが同じでないと患者さんが混乱しますが、栄養情報提供書で改善されると期待しています。こういったことも含め、管理栄養士の手を借りることも大切になってきます。

たんぱく質摂取はバランスを考慮
食事量減少の兆候はスタッフの情報から

菅野 高齢患者さんの食事指導で困っていることはありますか。

小池 たんぱく質をどう摂っていくかが課題です。たんぱく質を摂るとリンも増えますが、患者さんはリンの値を気にします。『慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン』1)では、リン、カルシウム、PTH(副甲状腺ホルモン)の順で基準範囲になるようにコントロールすることになっており、どうしてもリンを抑えようとします。ですので、患者さんに「リンが高いですね」というと「食事を減らしたほうがいいのか?」と考えてしまったり、「そうではなくお薬を増やしましょう」というと、今度は「薬を増やすなら食事のほうを制限するよ」など食事を制限する方向になりがちです。たんぱく質が減るとアルブミン値が悪くなり、低栄養、そしてサルコペニア・フレイルという悪循環をもたらします。リンの値を上げずに栄養状態を改善する提案が難しいです。

菅野 確かにリンの管理は重要です。しかし、スタッフは十分に理解しないまま単に「リンは悪い」とだけ思い込んでいませんか。リンが高くなると何が悪くなるか、患者さんやスタッフに説明していますか。

小池 骨代謝の説明、最終的に動脈の石灰化が起こりやすく、予後があまりよくないという説明はします。ただ患者さんには深刻さが伝わっていないようで悩ましいです。

菅野 リンが悪い理由は2つあります。1つは、骨を弱くするので転倒したときに骨折しやすい、骨折してもつきにくい、生活の質が落ちるということです。もう1つは血管の石灰化です。血圧が不安定になり、心筋梗塞など心血管合併症を起こしやすく、やはり生活の質を落とします。ここで考えたいのは、実際に骨が弱くなったり血管が石灰化するのにどれくらい時間がかかるかということです。

小池 確かに時間軸を含めた考えは不足していたかもしれません。

菅野 男性の平均寿命が80歳ですから、例えば80歳の男性患者なら既に長生きです。ですから、80歳くらいであればたんぱく質の摂取とサルコペニア・フレイルの進行とのバランスを考えたいですね。昨年出た日本透析医学会ワーキンググループの『サルコペニア・フレイルを合併した透析期CKDの食事療法』2)では、高齢患者のたんぱく質摂取量について提言しています。サルコペニア・フレイルの予防がその患者さんにとって重要だと医師が判断すれば、たんぱく質を少し増やしてもいいだろうという考え方です。たんぱく質の摂取が増えるとリン値が上昇するという問題も出てきますが、やはり「食べることは大事だ」と伝えることも必要だと思います。「食べてもいいけどリン吸着薬も飲む」という考え方に変えていくことが、特に高齢の患者さんでは重要です。実際に食事量が減っている方を見つけるのは難しいと思いますが、何かいい方法はありますか。

小池 アルブミン値の他に、透析中や自宅での血圧の上昇や、足のむくみを見ます。筋肉量が減って痩せてくるとドライウェイトとの乖離が生じ、その結果、血圧が上がったりむくみが生じたりするからです。ただ、筋肉量を直接測っているわけではないので、患者さんに「痩せた感じがあるか」「食欲は落ちていないか」「食事は1日3回、2回?」といったことを聞きます。

菅野 コメディカルや他のスタッフ、クラークや送迎運転手の方などの情報収集も役に立ちますね。

小池 そうですね。まず、透析が始まる前に看護師や臨床工学技士が、患者さんの血圧や体温を測りながら「変わったことはないですか」と必ず聞くようにしています。その中で「食欲が落ちた」「吐くことがある」といった話があれば、必ず記録してもらうとともに、そういう情報があったことをスタッフから直接伝えてもらいます。

ポリファーマシーが食欲不振の原因に
本当に必要な薬の再検討を

菅野 食事量の少ない患者さんにどう対応していますか。どんな理由で食べないのでしょう。

小池 透析導入直後の方たちで意外に多かったのは、透析患者になってしまい、落ち込んでしまったという理由です。また、長年透析を受けている患者さんでも、身近な方の死で元気がなくなり食欲が落ちることがあります。精神的な影響についても聞くようにしています。

菅野 そのサポートは看護師のほうが上手かもしれませんね。食欲不振の原因となる疾患を探ることはありますか。

菅野 義彦 先生 東京医科大学病院 副院長/腎臓内科 主任教授

小池 あります。胃がムカムカするときは胃潰瘍を考え、調子を聞いて必要であれば胃カメラを勧めます。また、逆流性食道炎が隠れている場合はちょっとした刺激で吐いてしまうので、それが恐怖になって食べたくないとおっしゃる方がいます。薬を飲むと気持ち悪くなり吐いてしまうので、薬も飲みたくないという方もいます。

菅野 薬剤の見直しは医師の重要な仕事ですね。特にポリファーマシーが食欲低下に影響しているかもしれません。透析患者さんの薬は多いですか。

小池 圧倒的に多いです。透析導入で一番多いのが糖尿病の患者さんなので、糖尿病関係の薬がまずあり、人によっては高血圧や脂質異常症など10種類以上を服薬しています。服薬で飲水量が増えてしまいますし、満腹になって困ると相談されたりします。

菅野 いろいろな症状が出て一時的に薬を出して、もう要らなくなったのにそのまま処方が続いているということはありますね。ある程度の間隔で薬剤の整理を行うことも必要です。薬を飲まない患者さんにはどう対応していますか。

小池 錠数が多かったり、剤型が合わなかったりといったことで服薬コンプライアンスが左右されていると思いますので、その患者さんに合った薬剤選択を心がけています。生活スタイルや食事の回数、食べる量も考慮しています。

菅野 とてもいい工夫ですね。本当に飲まなければならない薬は何かについて、医師もスタッフも再検討することが必要です。本来は薬剤師の協力も得られるといいですね。

患者と相性のいいスタッフを軸に
食事指導は長期の目標で

小池 食事指導や服薬指導をしても検査結果になかなか反映されません。指導内容も項目が多すぎて患者さんが疲れてしまう、億劫になってしまう、また自宅の環境でできないこともあります。よいサポートの仕方がないかと常に悩んでいます。

菅野 患者さんにはいろいろなタイプの方がいます。一言のアドバイスですぐに実行する方もいれば、あまり聞いてくれない方もいます。さまざまな問題があってそれを一度に解決しようとしても、患者さんは受け止めきれません。一番大きな問題は何かをそのときどきで考えることが大切です。まず「週3回来てくださいね」から始まり、次は「時間を守ってくださいね」。そして、食べ過ぎる方なら、水も塩分もたんぱく質も制限ではなく「まず水だけでいいから制限してみましょう。あなた自身が楽になりますよ」と問題を分割して指導することが大切です。

それを全て医師がやるのではなくて、担当も分割します。看護師から指導したほうがいい場合があり、臨床工学技士が働きかけたほうがいい場合もあります。患者さんと相性のいいスタッフがいたら、そのスタッフを軸にすべきでしょう。高齢の患者さんであれば、若い医師やスタッフより年配のスタッフの指導のほうが素直に聞けるかもしれません。こうしたチームプレー、役割分担も必要です。

小池 チームでの指導は心がけていますが、やはり結果がなかなか表れないですね。

菅野 透析生活は10年、20年と長期にわたります。焦らず、3カ月、半年という単位で見て「前に比べるとよくなりましたね」といえればいいと思います。50歳の患者さんなら「60歳までは入院しないようにしましょう。そのために〇〇しましょう」という目標の置き方もあります。

小池 リンの値が高かった患者さんに「食事を見直してほしい」と説明し、3~4カ月かけてとてもいい値になったことを経験しています。患者さんには週3回会うわけですが、例えば、体重を減らしてきた努力を認めて次につなげるようにお話しすることで、ご本人にもやる気が生まれていい結果につながる、ということが透析治療では大切です。

菅野 うまくいった例をスタッフみんなで共有していくといいですね。

外食やコンビニ食がやめられない患者には
100点を押しつけずできることから

菅野 独居の男性患者さんも多いと思いますが、料理の指導は難しくありませんか。

小池 お昼は必ず外食という患者さんもいます。透析導入した病院で栄養指導を受けるので、最初は自分で調理して、いい状態が続きます。しかし時間が経つと食事を作るのが億劫になり、惣菜を買ったり外食に出かけたりということになります。たまに外で、気分転換に普段と違うものを食べてみるのは悪くありませんが、それが続くとだんだん制限がわからなくなり、食事管理がうまくいかなくなってしまいます。外食や惣菜には無機リンを含む食品添加物が多く、塩分も濃いので患者さんにはお勧めできません。

菅野 透析生活に慣れてくると、“遊び”が出てくるのは仕方ないと思います。食事は私たちの生活の中で大きなウェイトを占めています。食事を制限されると生活が制限され、透析生活に前向きに取り組めなくなることがあります。

私は、1回や2回のリンの数値でうるさくいってはいけないとよくいいます。例えば結婚式に出席してその際に食事を摂れば数値は変動しますが、一時のことなので問題ありません。また、コンビニ通いを止められない患者さんもいますが、コンビニや外食では栄養成分が表示されているので、数値化しやすいという利点もあります。それを何とかうまく使うのがいいのではないかと思います。管理栄養士はコンビニの食材だけで透析食を組み立てることができますので、〇〇を1品、△△を1品というようにメニューの根幹を作ってもらうといいでしょう。そして栄養士や、患者さんと相性のいいスタッフとメニューを見ながら「3回に1回でいいからサラダを食べましょう」「3回に1回でいいから××を抜いてください」というように指導していくと、やがて「なるほど、こうすれば数値が下がってくるんだ」とわかる患者さんもいます。常に100点を取る必要はないのです。

医療法人社団永進会 聖蹟桜ヶ丘じんクリニック 院長 小池 鈴華 先生

小池 そうですね。透析の採血は週初めに必ず行っているので、どんな食事がいいか気になるのであれば「前の日の食事で試してください」と伝えています。そうすると、食事によってリンやカリウムの値が変動するのがわかりますし、クリアできていれば「前日の食事は大丈夫だ」と納得します。例えば、患者さんが季節の果物を食べたいときに「透析の前の日に食べてみましょう」と話し、カリウムでよい結果が出たのでモチベーションが上がって「楽しみが増えた」といってくれました。

菅野 そういうコミュニケーションはいいですね。

多職種の情報・技術・アイデアを共有し
患者ファーストで問題解決

小池 当院では、臨床工学技士が透析効率を見て、適切なタイミングでダイアライザーの変更などを提案してくれます。透析時間が3時間で足りないなら4時間に増やす、HDだったらオンラインHDFにするなどの調節をすることにより、透析効率を改善し、その分を患者さんの食事に還元していくように考えています。

菅野 膜面積や血流量を変えるだけでも随分違います。患者さんに好きな食事を摂ってもらうために、臨床工学技士と相談のうえで膜を替えるなど、患者さんファーストの対応は大切です。例えば、たくさん食べてしまう患者さんがいて、その原因が「精神的な要因や生活環境の問題で食べ過ぎが治まらない」と看護師にはわかっていても、管理栄養士は食べ過ぎだと考え、医師は検査数値が高い患者、臨床工学技士は血圧が落ちて手のかかる患者だと考えてしまう。スタッフの情報を共有し、各職種がそれぞれのアイデアや技術を持ち寄ることが、患者さんの問題解決のきっかけになります。

小池 私は医師として、いつも数値だけを見がちだと反省しています。数値が悪いと、患者さんが守っていないのではという思いで接してしまうことがあります。患者さんの話をよく聞けば、例えば精神的な負担から数値が悪くなっていたというようなこともわかります。スタッフは患者さんと長く接しているので、スタッフからも患者さんの変化を聞くようにしています。

それからスタッフへの期待として、透析患者さんの栄養に関する勉強会、例えば透析医学会でも各職種のセッションがあります。遠方の場合など大変ですが、情報収集を積極的に行ってほしいです。

菅野 医師が患者さんにいつも細かいアドバイスをする必要はありません。課題がたくさんあればスタッフ全員でひとつひとつ解決していく。そして急がないこと。透析は医師・看護師・臨床工学技士・薬剤師らが一丸となって取り組む医療です。職種を横断して情報を共有し、患者さんの状態を良好に維持するために協力できる関係を築いてほしいですね。

1)透析会誌.45:301-356,2012.
2)透析会誌.52:397-399,2019.

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