人口約45,000人の小城市は佐賀県中央部に位置し、隣接する佐賀市で働く人々のベッドタウンとなっています。医療資源として市民病院のほかクリニックが充実している環境のなか、タイヘイ薬局グループは、地域医療を支える街づくりに参加したいとの思いで2008年にメディカルモールおぎ店を開業しました。
同店は広い待合室と投薬窓口を有し、プライバシーが確保できる個室や輸液・抗がん剤の調製が可能なクリーンベンチや安全キャビネット、数多くの介護用品や福祉用具のサンプルを陳列するなど、地域のかかりつけ薬局として充実した機能と設備を備えています。また高齢者や障害のある方、妊娠・子育て中の方など誰もが利用しやすい施設整備を進めるため、県が制定した福祉のまちづくり条例の適合証も受けています。勤務薬剤師は10名ですが、各種自動調剤機器の導入により対物業務の負担を減らし、服薬指導などの対人業務や研修に注力できる環境も整えられています。同店は県で最初に誕生した健康サポート薬局でもあり、2021年9月には地域連携薬局、専門医療機関連携薬局の両認定を取得し、地域の中核的薬局と位置づけられています。タイヘイ薬局グループは県内に6店の薬局を展開していますが、2022年6月末時点で県内の地域連携薬局8件のうち5件が、専門医療機関連携薬局に至っては認定を取得する2件ともがタイヘイ薬局グループ店と、地域医療に対する意識の高さが現れています。
同店のかかりつけ機能をより強固なものにしているのが、佐賀県の診療情報地域連携システム「ピカピカリンク」です。複数の医療機関を受診していると、診療情報はそれぞれの医療機関で管理されるため、他の医療機関での治療や経過を把握することができません。ピカピカリンクは、複数の医療機関を受診している患者さんの診療情報を患者さん同意のもとで開示し参照できるシステムで、連携する医療機関でそれらを一元化した情報として参照することによる医療の質向上を狙いとして構築されました。診療情報の開示施設は地域の中核病院、閲覧施設は病院や診療所、薬局をはじめ訪問看護施設や歯科医院などで、2022年7月末現在で開示施設は15施設、閲覧施設387施設、診療情報を開示している患者数は38,111名となっています。
どの医療機関を受診しても一つのかかりつけ薬局で一元管理できるのが理想ですが、患者さんそれぞれの都合もあり、受診した医療機関の近くの薬局を利用して、複数の薬局で別々の疾患の薬を受け取っている方も少なくありません。そのような場合にピカピカリンクで患者さんの診療情報を参照すれば、開示施設における患者さんの治療、処方内容を把握することが可能です。かかりつけ薬局といっても、処方箋や患者さんからの聞き取りだけで細かい検査値や治療内容を把握するのは困難です。同店の伊藤智平先生は「抗がん剤治療を受けている方、かかりつけ薬剤師の同意を得ている方、在宅医療に移行になった方には、特にピカピカリンクの閲覧の同意をお願いしています。また、入院中に服用薬の変更があったり、処方意図が明確でなかったりする場合、腎機能や肝機能の悪化があるが本人の聞き取りではその程度がわからない場合も同意を求めるようにしています。検査値の推移がわかれば患者さんが今どのような状態なのかより正確に把握できますし、カルテ記事から主治医の処方意図やその治療に至った経緯、薬剤師や看護師の記録から病院での指導内容や治療に対する患者さんの気持ちがわかることもあり、より適切な介入や服薬指導につなげることができます」とピカピカリンクの活用法を説明します。また治療薬による副作用が疑われる場合や、患者さんの状態から適切と考えられる処方の提案、薬局での説明内容を主治医と共有した方がいいと思われる場合は、トレーシングレポートなどで医療機関にフィードバックを行っています。一方で、医療機関と薬局間での一対一の情報共有だけではなく患者さんが利用する他の医療提供施設への情報提供が必要な場合もあり、「ピカピカリンクの情報を私たちが介入するためだけに使うのではなく、当薬局をかかりつけにしている患者さんの情報が他の医療提供施設で役立つと考えられれば、適宜こちらからも情報提供を行うようにしています(伊藤先生)」。
前述のように、タイヘイ薬局メディカルモールおぎ店は専門医療機関連携薬局の認定を取得していますが、モール内にある診療所はがん専門のクリニックではないため、抗がん剤や支持療法薬の処方箋応需が必ずしも多いわけではありません。にもかかわらず同認定を取得した理由について伊藤先生は「がん治療に関わる調剤をしていなくても、他の疾患でがん患者さんが当薬局を利用されることは考えられますし、実際にがん患者さんがモールのクリニックに他の疾患や抗がん剤の副作用治療のため受診されることがあります。抗がん剤や支持療法薬を調剤していないから何もしないのではなく、かかりつけ薬局としてその患者さんにもっとアプローチをすべきです。地域や専門医療機関との連携は患者さんの利益のために行うもので、専門知識や資格を持っていても、患者さんが本当に望んでいることや困っていることは何なのかを理解しなければ効果的な介入はできません」と、専門医療機関連携薬局の認定取得はあくまでもかかりつけ薬局を土台にしたものだと考えます。
外来がん治療後に他の薬局を利用されている場合でも、ピカピカリンクで診療情報を確認することでチェックすべき副作用がわかるため、同店でも副作用症状の程度や支持療法薬の適切な使用法を患者さんに確認・説明することができます。また、他の診療科で治療している疾患のリスクが抗がん剤により高まることを伝えるといった、連携薬局としての介入も可能になります(図、事例1)。ほかにも、抗がん剤の副作用疑いで腎機能が低下した場合に用量調節が必要な薬剤の処方変更を提案する(図、事例2)など、ピカピカリンクを活用し専門医療機関連携薬局としてかかりつけ機能を発揮した介入といえるでしょう。
最後に伊藤先生は「患者さんとしっかり向き合い、患者さんのためになることは何かを常に考えるべきです。地域の中核薬局として、未病の段階から在宅医療に至るまで一人の患者さんの最初から最後までに関わる薬剤師・薬局でありたいと考えます。それを実現するためには、地域のあらゆる医療・介護と連携したかかりつけ薬局である必要があります」と、目指すべき薬剤師・薬局像を語りました。
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