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「医」と「知」をつなぐ情報誌 キッセイクール KISSEI
変動する医療環境のためのコンパス/PHARMACY TRENDS

地域における薬剤師・薬局の可能性を見出す日本医療薬学会「地域薬学ケア専門薬剤師」制度の発足

医療環境の変化から、薬剤師に求められる役割・職能は多岐にわたるようになってきており、それにともないさまざまな専門薬剤師制度が設けられている。
日本医療薬学会は2019年、同学会が認定する専門薬剤師制度を見直し、「医療薬学専門薬剤師制度」「がん専門薬剤師制度」「薬物療法専門薬剤師制度」に加えて、「地域薬学ケア専門薬剤師」と、副領域としてがんの専門性を有する「地域薬学ケア専門薬剤師(がん)」が新たに認定されることとなった(図1)。これは同学会が初めて薬局薬剤師を対象とした制度となる。自らも薬局薬剤師であり、今回の地域薬学ケア専門薬剤師制度に係わった日本医療薬学会理事の出石啓治先生に、同制度の概要と目的、制度が目指すこれからの薬局薬剤師像についてお話を伺った。
出石 啓治 先生
一般社団法人日本医療薬学会 理事/一般社団法人岡山県薬剤師会 副会長/株式会社出石薬局 代表取締役

専門薬剤師制度の新設と求められる薬剤師・薬局のあり方

明治から続く「いずし薬局」は出石先生で4代目。瀬戸大橋を望む倉敷市児島地区の中心部に位置し、町の薬局として古くからこの地域の医療に貢献してきた。

2015年に厚生労働省は「患者のための薬局ビジョン」1)を策定し、「患者等のニーズに応じて強化・充実すべき2つの機能」として「健康サポート機能」と「高度薬学管理機能」とを挙げています。また、2019年に改正された「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」では、「薬局ビジョン」の「健康サポート機能」に対応する地域連携薬局、「高度薬学管理機能」に対応する専門医療機関連携薬局の2つを明記し、地域における、専門医療機関としての薬剤師・薬局のあり方を示しました。

さらに、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目処に、地域の包括的支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築が推進されていることを踏まえて、日本医療薬学会では「地域医療に必要となる広範な薬物療法に一定水準以上の実力を有し、現に地域医療・介護等の現場において活躍している薬局薬剤師」を「地域薬学ケア専門薬剤師」に認定するとして2)、同学会としては初めて、薬局薬剤師を対象とした認定制度を新設しました。「日本医療薬学会が認定する各種の専門薬剤師制度は、病院薬剤師や大学教員を対象としていました。しかし、昨今は薬局にも薬物療法におけるエビデンスが求められるようになってきています。学会としても数年前から薬局薬剤師を対象とした専門薬剤師制度を検討していたところ、薬機法の改正を機に議論が加速し、地域薬学ケア専門薬剤師制度が発足したのです」と制度新設の経緯を振り返ります。


地域の社会資源との連携と薬局全体の職能向上の牽引

地域薬学ケア専門薬剤師は「地域包括ケアなどの地域医療・介護における切れ⽬のない薬学ケアに対応するため、幅広い領域の薬物療法における⾼度な知識、技能及び臨床能⼒を備えた信頼される薬剤師を養成し、国⺠の保健・医療・福祉に寄与することを⽬的として」おり2)、薬剤師の薬学的専門性を地域で発揮することが求められています。たとえば、地域外の遠方の専門病院に通院している患者が、通院日でない日に副作用症状を発現した場合にその対応を行ったり、必要であれば近隣の医療施設に相談・紹介するなど、地域薬学ケア専門薬剤師はその専門性を活かし地域内で患者をケアします。副領域のがんの場合、一つのがん専門病院とセットになってそこのすべての処方を受けるという位置づけではなく、幅広い薬学ケアの知識を習得した上でがんを得意分野にする薬剤師が、地域で患者の副作用への対応や相談などを受けるという役割です。

さらに地域薬学ケア専門薬剤師の具体的な機能として、出石先生は次のように説明します。「遠方でなく地域の病院を受診している患者さんに対しても、薬局でできることがあります。たとえば、経口抗がん剤の副作用の一つである手足症候群は保湿が主な対応になりますが、病院で処方される薬剤と同等のOTC医薬品が薬局でも販売されています。好発時期もわかっていますので、症状が現れてから病院を受診するのではなく、あらかじめ薬局で対応することができます。それをトレーシングレポートで病院の主治医と情報共有すれば、利便性も含め患者さんの利益となります」。また医療のみならず、地域住民が必要とする介護や福祉との連携、学校薬剤師であれば衛生管理についての学校との連携など、さまざまな社会資源と患者との橋渡しをすることで地域住民の健康に貢献する役割も担うと考えられます。

地域住民への貢献に加え、地域薬学ケア専門薬剤師が、地域の薬剤師・薬局の職能向上の牽引役となることも期待されます。「連携している病院の治療方針やレジメンを、他の薬剤師・薬局と共有して研修や勉強会を行うなど、習得した知識を広げていき、地域全体の薬剤師・薬局のレベルを上げていくことが理想です」。

基幹施設で病院の考え方を学びエビデンスのための指導を受ける

地域薬学ケア専門薬剤師制度における研修は、基幹施設と連携施設が連携して行います(図2)。連携施設は、地域薬学ケア専門薬剤師を申請する薬剤師が、日常の薬物療法や地域薬学ケアについて研修する薬局で、そこで関わった症例50件(がんについてはがん領域の症例をプラス20件)を更新申請時に提出することになります。基幹施設は、日本医療薬学会が認定した指導薬剤師が常駐する病院で、指導薬剤師は施設のカンファレンスでの指導や、症例への介入についてのアドバイスを行います。「多職種の参加するカンファレンスを薬局薬剤師が経験することで、病院での薬物療法の選択や医師の考え方、病院薬剤師の介入の仕方などを学ぶことができます。また、薬物療法以外では医療安全への取り組み方など、何を発見して薬局の業務にいかに落とし込んでいくか、センスが問われるところです。一方で、薬局が何をしているかを病院側に知ってもらう機会にもなるのではないでしょうか」(出石先生)。

薬剤師・薬局が良質なエビデンスを生み出すために、申請時に提出する症例についての指導も指導薬剤師の大きな役割です。「これまでの薬局薬剤師による学会発表や論文の多くは、業務の過程で自分たちが興味を持った事例がテーマになっていましたが、その臨床研究がいかに地域の医療体制や患者さんに貢献できるかが重要です。ですから、取り上げるテーマの妥当性や論文の書き方なども議論していただきたいです。取り上げる症例は疾患に関するものだけでなく、地域において薬学的ケアの介入が有効な事項として、衛生管理や介護などの分野があってもよいと考えます」。

地域薬学ケア専門薬剤師の認定については、2020年度から2024年度までは過渡的措置が講じられ、その間は暫定認定としています。その上で研修等を行い、2026年の1回目の更新までに要件を満たせば認定の更新が可能となります(図1)。「専門薬剤師や指導薬剤師が増えて研修の受け入れが可能な環境になれば、将来的には薬局が基幹施設となることも期待しています」。

薬剤師・薬局の新たな価値を作り出す地域薬学ケア専門薬剤師の可能性

現時点では地域薬学ケア専門薬剤師の副領域はがんだけですが、今後は糖尿病や他の疾患についても専門薬剤師を認定する計画があるといいます。出石先生は今回の認定制度にともなう薬局の将来像について「専門医を標榜している診療所に患者さんが行くように、薬剤師・薬局に得意分野があれば、自分に適した薬局を患者さんが選ぶようになるのではないでしょうか。また、地域の他の薬局では対応が難しそうな患者さんを専門薬剤師がいる薬局に紹介したり、アドバイスをもらったりして、地域の薬局で患者さんのケアができるようになればいいと考えます」と語ります。

医療環境は変化を続けており、薬剤師・薬局も職能の拡大・変化が求められています。「薬機法の改正で薬剤師・薬局のあり方が取り上げられたのは、これからの薬剤師の職能をあらためて考えていかなくてはならないというメッセージだと捉えています。地域薬学ケアの幅は広く、介護や福祉を含め医療だけに止まりません。その中で、薬剤師・薬局ならではの価値を作っていく必要があります」。地域薬学ケア専門薬剤師は、地域医療のあり方を大きく変えていく可能性を秘めています。

1)
厚生労働省 患者のために薬局ビジョン ~「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」へ~ 平成27年10月23日
2)
一般社団法人日本医療薬学会ホームページ「認定制度:地域薬学ケア専門薬剤師制度制度概要」
https://www.jsphcs.jp/index.html

※感染対策を行い取材しました(2020年7月)。

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