古河市では、薬剤師とケアマネジャーの連携により地域全体で在宅に潜在する薬の問題を拾い上げ、その問題を解決するための仕組み「古河モデル」を構築した。同プロジェクトメンバーである薬剤師の宇田和夫先生と、ケアマネジャーの渡邉久江氏に、「古河モデル」における両職種の役割、今後の展望についてお話を伺った。
一般社団法人全国薬剤師・在宅療養支援連絡会 会長
古河薬剤師会 副会長 ケアマネジャー連携事業担当
茨城県介護支援専門員協会古河地区会 副会長
2018年、古河薬剤師会と茨城県介護支援専門員協会古河地区会(ケアマネ協会)は、薬剤師とケアマネジャーの連携により、在宅における薬の問題を抽出し薬剤師が介入する仕組みである「古河モデル」を構築しました。
在宅の薬の問題に薬剤師が介入することの効果についてはすでに報告があります1)。しかし、「そもそも地域にはもっと多くの薬の問題が潜在しているのではないか、と課題意識を持ったのが『古河モデル』を構築したきっかけです。薬局の窓口で患者さんやご家族に服薬状況を聞くと、多くは『ちゃんと飲めています』と答えが返ってきます。しかし実際には家に多くの残薬があったり、管理ができていなかったりといったケースが少なくありません」と宇田先生は地域の実情を打ち明けます。潜在する薬の問題に薬剤師がアセスメントできる仕組みを作る必要がありました。
そこでまず2016年に、古河市内の在宅療養者の服薬の実態を把握するためのプレ調査を行いました。薬剤師会、ケアマネ協会の両会で作成した「在宅服薬気づきシート(気づきシート)」を用いて、市内6ヶ所の居宅介護支援事業所に所属するケアマネジャー31人が、担当する利用者すべて(828名)にスクリーニング調査を実施したのです。シートには、ケアマネジャーが気づくことができる実在する問題として、①想定以上の残薬がある、②薬に関する問題(飲み忘れ・間違い、飲みにくさ、理解不足、不安・疑問)がある、の2項目と、さらに、潜在化した問題が発見される可能性のある利用者の状況として、③複数の医療機関を受診している、④複数の薬局から調剤を受けている、⑤6種類以上の内服薬を飲んでいる、⑥市販薬やサプリメント等を服用している、の計6項目を設けました(表1)。また、薬剤師のサポートが必要かという調査も行いました。
「ケアマネジャーの業務は多岐に渡り、書類作成も多いため、気づきシートでは項目を絞り込みチェック方式にするなど、スクリーニングが負担にならない工夫もしました」(渡邉氏)。
ケアマネジャーへのプレ調査の結果、ケアマネジャーの気づきに関する項目には21%、利用者の状況には44%、合わせると約50%に何らかのチェックがありました。一方で、薬剤師のサポートについては85%が当面不要という回答でした。これは、薬剤師によるアセスメントが必要な利用者が半数いるにもかかわらず、ケアマネジャーの認識不足のため、在宅療養者の服薬アセスメントが十分に実施されていないことを示します。同時に、服薬アセスメントに必要な情報への高いアクセス力をケアマネジャーが有することも明らかになりました。
「それまで薬については、お薬手帳の確認や口頭で服薬状況を確認し、何か問題があれば自分が解決しなければと考えていたケアマネジャーがほとんどでした。気づきシートを使って状況を聞いてみると、利用者の状況に関する情報収集が抜けていた、もしくは聞いていてもそこに問題があるという認識がなかったということがわかりました」と渡邉氏は振り返ります。
プレ調査により、薬剤師が関わるべき問題があるという課題を、ケアマネジャーと薬剤師が共有することができました。そうして、「利用者情報へのアクセス力を強みとするケアマネジャー」と「薬剤師の専門力」とを連結させて「利用者に薬剤師の専門的価値を提供する」という方式に基づき、「古河モデル」のプロジェクトが発足したのです。「市内すべての要介護者の服薬管理が、ケアマネジャーの気づき(情報)を起点に、かかりつけ薬局を中心に他の医療職(主治医)との連携の下に実行され、継続性のある仕組みとして構築すること」と設定されたゴールが、課題と同様に薬剤師会とケアマネ協会で共有され、そのゴールに向けて活動が進められました。「古河モデル」のプロジェクトには薬剤師会とケアマネ協会に加え、活動を分析・評価するために北海道科学大学薬学部の協力も仰ぎました。
プレ調査を経て「古河モデル」事業は、市内の全薬局と居宅介護事業所15施設が参加する形で、2018年10月から第1期、2019年4月から第2期、2019年10月から第3期にわたり実施されました。よりシンプルに改訂された気づきシートを用いてケアマネジャーがスクリーニングを行い、薬剤師がその情報をもとにケアマネジャーと連携しながらアセスメントを実施、アセスメントの結果がケアプランに反映されます。その間に処方変更などが生じれば、薬剤師が医師と相談・提案し結果をケアマネジャーにフィードバックします(図1)。これを1人の利用者に対し半年ごとに行いました。
スクリーニング件数は1期1,474件、2期1,404件、3期1,454件でした。1期と2期の実在する問題群・潜在化した問題群の比較は表2の通りです。3期継続してスクリーニングが行われたのは931件で、想定以上の残薬*に関しては、1期から3期にかけ243件を集計したところ減少が確認されました(p<0.001)。「気づきシートの活用で、ケアマネジャーの経験にかかわらず、同じ項目の聞き取りができます。薬剤師が介入することでいろいろな相談ができ、安心できると利用者にも好評です。ケアマネジャーは福祉系の方が多く、医療との連携は大きな課題のひとつとされていますが、『古河モデル』ではスクリーニング結果を薬剤師と共通することで、薬剤師によるアセスメントはもちろん、必要に応じてそこから先の医師まで情報がつながることになります」(渡邉氏)。
「ケアマネジャーが気づいて情報を把握し、それを薬剤師が判断しアセスメントする。その役割分担を明確にしたことがさまざまな連係プレーの成果につながったと考えます(表3)。生活支援を主とするケアマネジャーを扇の要に位置づけ、必要な専門職種と連携すれば、薬剤師以外にもさまざまな専門的価値につなぐことができ、結果的に提供できるサービスの質が向上します」と宇田先生は、他の職種への拡がりにも期待を寄せます。
*概ね2週間以上
「古河市の薬局による訪問服薬指導は一部の薬局が集中して担っており、58軒中8割が5件以下という現状があります。しかし、今後の訪問服薬指導について尋ねたところ、9割の薬局が患者さんの家まで行けるとの回答でした。服薬する薬があるということは必ずどこかの薬局が調剤しているわけです。高齢化が進むなかで、その薬局がかかりつけとなり在宅の薬の問題もアセスメントすれば、地域全体の薬の問題を解決することができます。これは古河市以外でもできるはずです」(宇田先生)。ただし、「今回の目的は、訪問服薬指導を増やすことではありません。それは手段のひとつであって、患者さんに薬剤師の専門的価値を届けることが目的です。他の職種と連携する際には互いが共有できる課題を設定することが非常に重要です」と釘を刺します。
今後はこの仕組みを継続していくことが課題となり、そのためにICTの活用もトライアル的に進めています。「ICTの活用で、より効率的に情報の共有ができることを期待します」と渡邉氏も意欲的です。最後に宇田先生は、「今回研究事業としたのは構築した仕組みを継続していくためです。『古河モデル』のエビデンスが医療保険や介護保険の制度で評価されれば、全国どこの現場でも当たり前のように展開されることになるでしょう」との構想を述べ、「古河モデル」のこれからの期待について語りました。
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