薬事・血液担当 係長(薬剤師)
森脇 哲治 氏
理事/佐賀市薬剤師会 副会長
有限会社福島薬局
福島 あさ子 先生
佐賀県は人口10万人あたりの薬局数が約64施設と全国1位であり、医薬分業率も81.1%(2017年度末)と高い割合を維持している地域であることから、薬局は地域住民にとって身近な医療提供施設です。しかし、処方箋を持参しないと入りにくい場所と認識されているのは、佐賀県のみならず全国の薬局に共通する現実です。そこで佐賀県では、「患者のための薬局ビジョン」を背景に薬局が地域住民の健康の窓口となるために、まずは佐賀市をモデル地区として、薬局の機能強化を目的とする『けんけつ応援薬局』事業を2017年度に立ち上げました。その内容は、献血を行った方が、後日送付される検査成績通知票を薬局に持参して健康相談を受けるというものです。また、献血を行った方だけではなく、献血時に不適格とされた方、さらには献血をしていない方も対象としました。
献血検査成績通知票を活用しようとした理由は、同事業を手がけた県の薬務課が薬局と献血の両方に携わっており、近年漸減傾向にあった献血者数の増加も期待してのことでした。それについて県の健康福祉部 薬事・血液担当の森脇哲治氏は、「薬局への敷居が高いと思われていることに加え、献血の検査結果もただ送付されているだけで有効活用されていない実態がありました。医療の専門知識を持つ薬剤師がせっかく身近な薬局にいるのだから、その献血検査の結果をツールとして気軽に行ってもらえるようにしようという施策です。さらに同事業をきっかけとして、特定健診や、疾患が重症化する前に受診勧奨を行うことで、早い段階での医療機関への受診につながることも期待されます」と説明します。
事業のスタートにあたっては薬剤師会、医師会、県赤十字センターなど関係機関への事前説明や、佐賀市薬剤師会を通して市内の薬局に事業説明会を行いました。その結果、2017年度に『けんけつ応援薬局』事業に参加したのは、佐賀市内の約6割を占める107薬局でした。
同事業には他の自治体からも問い合わせがあります。その際によく聞かれるのが、薬剤師会と医師会をどのようにまとめたのか?ということで、これは行政・医師・薬剤師の連携の難しさを物語っています。「“薬と健康の週間”など、薬剤師会は行政と一緒になってイベントを行ってきました。また医師会・歯科医師会・薬剤師会の三師会でも定期的に会合を開き情報交換するなど、顔の見える関係ができていました」と佐賀市薬剤師会副会長の福島あさ子先生は、信頼関係の積み重ねが従来あったことが事業成功の鍵であるとします。さらに、「従来の関係の上に、同事業が薬局の地域活動だけではなく医療機関にもメリットがあり、win-winの関係が持てることがご理解いただけたためだと思います」と森脇氏も、薬局と良好な関係が築かれていたと考えています。
『けんけつ応援薬局』の事業参加にあたっては、診療行為をしないことはもちろん、健康食品などの販売促進につなげないこと、相談者の個人情報やプライバシーに考慮することを参加条件としています。「相談内容を物販につなげないことはとくに徹底しました。薬局が利益を優先すれば、長年築き上げてきた医師会との良好な信頼関係を壊しかねないからです」(森脇氏)。
事業開始にあたり、本事業の目的、相談者の検査成績通知表の確認や相談者の生活習慣などの聞き取り、その結果をもとにした健康アドバイスや医療機関への受診勧奨について、さらに特定健診や献血などの相談への対応方法などを記載したマニュアルを作成しました。また、これらの対応ができるように研修会を開催し、研修会の受講は参加薬局となる条件のひとつとしました。各薬局から最低1名の薬剤師が参加し、参加した薬剤師が研修後に各薬局内で研修を行うようにしました。これにより、どの薬局でも一定レベル以上の相談が受けられるようにしたのです。
相談者となる地域住民に対してもさまざまな形で告知を図りました。参加薬局名や電話番号リストが記載された説明リーフレット、地元広報誌への記事掲載、JR佐賀駅のデジタルビジョン活用、ポスターや参加薬局であることを示すステッカー、のぼり旗などです。「考えられるあらゆる手段を講じ、限られた予算の多くを広報活動に使いましたが、まだ十分ではないと感じています」と森脇氏は苦心を語ります。
それでも広報活動は功を奏しています。「事業の取り組みを知った方がたまたま通りかかり、当薬局が『けんけつ応援薬局』のひとつであることを知って入って来られたのです。健康相談というより、ご自身の健康や生活スタイルの確認といった感じでした。でも、それこそが身近にある薬局に気軽に来て何でも相談できるという、当事業が本来期待した効果だと思います」と福島先生は、ご自身で手応えを感じています。
薬剤師の側にも変化が見られました。検査値に対する意識の高まりです。「近年は処方箋に検査値を記載する医療機関もありますが、薬局でそれを受け取っても及び腰のところがありました。それが、いつでも健康相談に応じる体制を作ることで、検査値をより意識するようになったのです」(福島先生)。
2017年度から佐賀市を対象に始まった『けんけつ応援薬局』事業ですが、2018年度は佐賀県全域を対象に拡大し、参加薬局は200を超えました。しかし「どこの薬局でも気軽に健康相談をというコンセプトと照らし合わせると、まだまだ足りません。本当は全薬局に参加してほしい」と森脇氏も福島先生も声を揃えます。
『けんけつ応援薬局』を知らない住民もまだ多くいます。2017年度に献血をした方は3万人程度、しかし相談者は約50人で、40歳代の女性が多いなど年齢や性別に偏りも見られます。「相談者のアンケートでは、薬局に相談に来てよかった、薬局の機能がわかったという意見が多くありました。「患者のための薬局ビジョン」事業としては2年で終了ですが、取り組みは継続していかなければなりません。そのためには薬局の機能を活用することのメリットを広く知っていただく必要があります。行政としても広報に関しては今後も一緒に取り組んでいきたいと考えています」と森脇氏は薬局との連携を強調します。
最後に、「薬局でひとつのことを聞くといろいろなことを教えてくれる、と言われることが最近多くなりました。徐々にではありますが、薬局に対する地域の方の認識が変わってきているのを感じます。『けんけつ応援薬局』も同様に、浸透するには少し時間がかかるのではないでしょうか。その時まで、何でも薬局・薬剤師に聞いてくださいと言い続けていきます」と福島先生。行政と一丸となり、地域の健康に真に貢献できる薬局へと少しずつ、しかし確実に歩む姿勢が窺えます。
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