- 【開 院】
- 2002年 4月
- 【診療科】
- 内科一般・メンタルケア科・皮膚科・整形外科・婦人科・眼科・耳鼻咽喉科・内視鏡科・健診部門
- 【URL】
- https://www.hosp.jikei.ac.jp/harumi/
「行動を習慣化させるには、目標を書かせて明確にすることが重要です。その際、患者さんの自己肯定感を損なわないように簡単な目標を設定し、できなかったときの代案も決めておくのがよいでしょう」と横山啓太郎先生は、行動変容を促すポイントについてアドバイスする。
慈恵医大晴海トリトンクリニックは、東京慈恵会医科大学附属病院のサテライトクリニックとして、2002年4月に晴海トリトンスクエアのオフィスタワーに開院しました。この複合施設には 2万5,000人もの企業人が働いているほか、一般住民も多く暮らしており、人口規模は約10万人といわれています。
こうした地区において、同クリニックは内科一般(循環器内科、呼吸器内科、消化器内科、腎臓内科)を中心に、メンタルケア科、皮膚科、整形外科、婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、内視鏡科を揃え、主にプライマリケアを担っています。また、健診部門を併設し、年間6,000人の健康診断と、2,000人の人間ドックを実施しています。「当クリニックを利用する患者さんの期待に応えるために、東京慈恵会医科大学の本院との連携を強化した医療を提供しています。いずれの科も本院の専門医が診療を行っており、より高度な医療を必要とする場合には、適切な時期に本院に紹介します」と同クリニック所長の横山啓太郎先生は説明します。
企業人が多い地区ということもあり、通常の診療に加えて、心疾患への迅速な対応や、がんの早期発見にも本院との連携に注力しています。胸痛を訴えて受診した患者には一律に心電図検査を行い、そのデータを本院のCCU(冠疾患集中治療室)の専門医に転送して即時に心筋梗塞の診断をつけられる診療体制を構築しました。心筋梗塞の場合は、救急車で本院に患者を搬送して必要な治療を施します。また、人工知能を搭載した低線量の最新型CTを導入、本院の放射線科と緊密に連携しながら肺がんの早期発見にも努めています。このような連携強化による診療は、同クリニックの大きな強みになっています。
さらに、国内の大学病院では初の取り組みとなる「行動変容外来」を開設していることも特徴のひとつです。この外来は2016年に横山先生が本院で始めたもので、薬だけに頼らない生活習慣病のコントロールを目指し、チーム医療をベースに行動変容プログラムに基づいた支援を行っています。同クリニックでは、横山先生が所長として2019年から、行動変容外来を実施しています。
患者の生活習慣を改善させるのは容易なことではなく、横山先生自身も苦労を経験してきました。肥満と高血圧症の治療をしていた患者に、健康リスクを3年説き続けても、まったく数値が改善しません。あるとき先生はその患者に「どんな説明なら5分聞くことができますか」と尋ねました。すると患者は「みのもんたさんのような、“これをすると健康になれる”という説明なら聞いてみたい」と答えたそうです。この言葉を聞いた横山先生は、生活習慣を変えさせるには具体的な方策をしっかり示さなければならないことに気づいたといいます。そして、以前から構想を練っていた行動変容外来を開設し、実践を通して診療体制や行動変容プログラムを構築していきました。
行動変容外来ではチーム医療を基本とし、医師、看護師、栄養士は患者に対して同じ目標を共有します。「職種によって目標が異なると、患者さんは自分の健康観を築き上げることができなくなってしまうからです」。診療のプロセスは図に示したとおりで、月1回定期的に各職種による診療を受け、5回の通院で終了となります。診療では最初に看護師が患者とのヒアリングを行います。家庭や仕事に問題があると、自分の体に関心を持てなくなることもあるため、生活背景や心理状態についても丁寧に聞き取りを行います。
次に、看護師のヒアリング情報をもとに医師が患者と面談します。その際には看護師に同席してもらい、必要に応じて看護師の意見を聞くこともあります。「この場面で重要なのは、医師と看護師が患者さんの目標に向かって、ともにサポートしてくれる存在であることを患者さん自身に認識してもらうことです。一方、看護師にとっては自分のヒアリングが役に立っていることを実感できる機会になるため、より積極的にかかわろうとする意欲が出てきます。さらに、医師も看護師のフォローの重要性を認識できる側面もあります」。
さらに、横山先生たちが提供している行動変容プログラムでは、患者の個別性も重視しています。「生活習慣病に立ち向かってもらうには、患者さんのマインドを動かすコミュニケーションが必要です。それには、あらゆる面からその患者さんをよく知ることが欠かせません」。その方法のひとつとして、国際的に使用されている「NEO性格診断」を導入しています。分析結果は共有し、患者が自分の性格を自覚したうえで、健康管理に取り組めるよう働きかけています。また、医師や看護師が、患者の性格に応じて説明の仕方を変えたり、減量などのアプローチ法を提案したりすることにも役立てています。「例えば、計画的なタイプの患者さんには書面で筋立てて説明し、ゆっくりしたペースを好む患者さんには、そのつど理解度を確かめながら説明していきます」。
横山先生は血圧や血糖値といった機能的な個別性についても注目し、ウェアラブルデバイスを積極的に活用して情報を収集します。「試しに私自身の腕にウェアラブルデバイスを装着して血糖値の変動を観察してみると、食事より心身の緊張状態のほうが血糖値の上昇に強い影響を及ぼしていることがわかりました。また、一般的には、血糖上昇を抑制するには野菜を先に食べる“ベジファースト”が有効だといわれていますが、私の患者さんでは10人中6人で有効であり、4人はほかの方法への切り替えが必 要でした。つまり、血圧や血糖のコントロールには数値の連続性を確認することが重要で、それにより日常生活の中で一人ひとりの状況に応じた具体策を示せるのです」と横山先生は指摘します。
このような診療体制や行動変容プログラムのもと、行動変容外来では本院での診療から通算して約30人の患者をサポートし、減量をはじめとする生活習慣病の改善に成果を上げてきました。「さまざまなメディアで取り上げられたこともあり、“薬を服用する前に生活習慣を変えたい”という健康意識の高い患者さんの受診が増えています。また、近隣の診療所から“自分たちでは改善が難しいのでお願いします”と紹介されるケースも目立ちます」と横山先生は受診の状況について説明します。
行動変容外来に対するニーズは確実にあるものの、保険診療では算定できない部分も多いため、一般の医療機関に広がらないのが大きな課題のひとつです。そのため、横山先生は行動変容プログラムをパッケージ化して自由診療にすることも計画しています。「子どもの教育に例えると、行動変容外来への受診は、サマーキャンプに参加するようなものです。患者さんに、性格分析や持続自己血糖測定などいろいろな経験をしてもらうことで、自分に合った方策を知り、主体的に健康管理に取り組める習慣を作っていきます。私たちの次のサポートは、その習慣を持続させることです。そのためのサービスとして、オンラインによるアフターフォローや健康診断の評価と助言なども検討しています」。
同クリニックが取り組んでいる「ライフデザインドック」(運動機能や筋肉の状態から、将来の要介護や寝たきりリスクを予測する)ともゆくゆくは連動させ、より包括的な健康サポートを目指していきたいと横山先生は考えています。「人生100年時代といわれ、予防医学の分野では、健康寿命を延伸するための新しい指標が求められています。その指標づくりの研究にも着手したところです」。
大学病院のサテライトという特殊性と、多様な人々が集う複合施設の地の利を生かし、予防医学で次々と新しい取り組みに挑戦する慈恵医大晴海トリトンクリニック。この分野の新旗手としての存在感をますます高めています。
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