1. お役立ち情報
  2. キッセイ診療サポート
KISSEI

概日リズムからみる夜間頻尿概日リズムからみる夜間頻尿

TOPICS
松尾 朋博 先生
筑波大学医学医療系 腎泌尿器外科 准教授
根来 宏光 先生
所属は2021年11月現在

夜間頻尿と概日リズム

図:睡眠中の膀胱内尿量変化

排尿の概日リズムは、脳の視交叉上核にある中枢時計と、腎臓および膀胱にある末梢時計によって制御されています1〜3)。昼間は、腎臓でしっかり尿が産生され、それが膀胱に溜まってくると、脳が尿意として感知し効率的に排尿されます。一方、夜間は脳の覚醒レベルが低下し、腎臓での尿産生が減少し、膀胱の機能的容量は増大します。3)。しかし、何らかの要因で排尿に関連する概日リズムが破綻すると、夜間の尿量が増え、膀胱容量が低下し、夜間多尿となって夜間頻尿を発症すると考えられています3〜5)

高血圧や糖尿病、心疾患、脳血管障害、うつ病などは、夜間頻尿と関連する因子として知られています6)。概日リズムの破綻が全身疾患とも関わって夜間頻尿を引き起こし、夜中にトイレに行くと夜間の光暴露になり、さらに概日リズムの破綻につながるという悪循環をもたらすと考えられます(図17)。このように、夜間頻尿と不眠は深く関連していますが、それらの関連性はまだよくわかっていません。

ながはまコホート研究における夜間頻尿とうつ発症、睡眠障害と排尿症状悪化の知見

滋賀県長浜市在住の30~74歳の健康な人を対象とした、ながはまコホート研究は、2008~2010年に第1期、2013~2015年に第2期の調査が行われました。第1期でうつ症状がなかった7,247人において、排尿回数依存的に、第2期でうつ症状の発症リスクが増加しています(調整オッズ比は夜間排尿回数0回を基準として、1回1.31、2回1.41、3回2.06、4回以上3.20)。ベースの夜間排尿回数とうつ症状発症には明確な用量依存性を認め、夜間頻尿が重症であるほどうつ症状が発症しやすいことがわかります8)。また、50歳以上を対象とした縦断的解析5,297人の睡眠障害とLUTSの関連では、睡眠障害があるとIPSSの排尿症状(残尿感、尿線途絶、尿勢低下、腹圧排尿)の合計が3以上悪化するリスクになることが示されました(オッズ比1.35、p=0.003またはp<0.05、ロジスティック回帰分析)。この研究では、睡眠薬服用により自覚的な睡眠の質が保たれているグループにおいても排尿症状の悪化を防ぐことは示されませんでした9)。さらに、夜間排尿回数と総死亡率の検討において、夜間排尿回数が増えるにしたがって総死亡率は有意に上昇しました(p<0.001、log-rank test)10)。夜間頻尿はうつ症状や不眠・睡眠障害を引き起こすことで、QOL低下、排尿症状の悪化につながり、さらに死亡リスクを上昇させる可能性があると考えられます。

概日リズムの視点からみた夜間頻尿の治療

加齢とともに、昼と夜の差が曖昧になって概日リズムの振幅が低下することが知られています。夜中にトイレに行くなどで光暴露があると、振幅の低下は亢進されます。概日リズムの破綻を予防・改善するためには、昼と夜のリズムがより明確となるように①朝に十分な光を浴びる、②昼寝は短時間(30分以内)、③夕方の運動や足の挙上で下肢に貯まった水分を排出、④入浴は就寝1~2時間前、⑤就寝時は低照度に設定する、などの生活習慣の是正が基本となります。

破綻していく概日リズムを取り戻すことは夜間頻尿の改善にもつながります。一方、生活指導によっても昼夜のリズムが是正しきれず、夜間頻尿が改善されない場合は薬物治療が考えられます。わが国では男性の夜間多尿に対してミニリンメルト®OD錠が臨床使用されています。国内第Ⅲ相試験で、ミニリンメルト®OD錠50μgの12週間投与により夜間排尿回数は1.21回減少し、HUSは117.6分延長しました11,12)。概日リズムの破綻と夜間頻尿がどのように関係しているのか、という視点で検討することも必要だと考えています。

参考文献

1)
Firsov D, et al. Nat Rev Nephrol 2018; 14: 626-635.
2)
Negoro H, et al. Nat Commun 2012; 3: 809.
3)
Negoro H, et al. J Urol 2013; 190: 843-849.
4)
Kim SJ, et al. Int Neurourol J 2019; 23: 258-264.
5)
Ihara T, et al. Sci Rep 2019; 9: 10069.
6)
Yoshimura K. Int J Urol 2012; 19: 317-329.
7)
根来宏光ほか.泌外 2015; 28: 1693-1698.
8)
Funada S, et al. J Urol 2020; 203: 984-990.
9)
Fukunaga A, et al. J Urol 2019;202:354-359.
10)
Funada S, et al. J Urol 2020;204:996-1002.
11)
社内資料.男性患者国内第III相試験(130試験)[承認時評価資料]
12)
Yamaguchi O, et al. Low Urin Tract Symptoms 2020 ;12: 8-19. [フェリング・ファーマ実施治験]

Drug Informationはこちらをご参照ください

※ビデオ会議システムを利用したリモート開催で取材しました(2021年3月)。

※掲載内容は、作成時点での情報です。
転用等の二次利用はお控えください。

当社ウェブサイトでは、ご利用者の利便性向上と当社サービスの向上のためCookieを使用しています。また、当サイトの利用状況を把握するためにCookieを使用し、Google Analyticsと共有しています。Cookieによって個人情報を取得することはありません。Cookieの使用にご同意いただきますようお願いいたします。詳しくはこちら