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「医」と「知」をつなぐ情報誌 キッセイクール KISSEI
変動する医療環境のためのコンパス/PHARMACY TRENDS

病棟から地域へ 地域中核病院薬剤師が発信 薬薬連携による在宅訪問指導

地域包括ケアシステムの構築が進み、連携による切れ目のない医療が求められているが、病院薬剤師が退院後の患者の状況を知ることは難しく、また薬局側でも患者が病院でどのような治療を受けていたのかを容易に知ることができないのが現状だ。その結果、在宅患者が抱える薬学的問題が解決されないままになっているケースも少なくない。
三豊総合病院では入退院前後のシームレスな薬学的連携を目指し、入院中から薬学的問題に介入し地域につなぐ「地域連携担当薬剤師」を設置した。今回は地域連携を展開し、自ら「地域連携担当薬剤師」として活動する三豊総合病院副薬剤部長の篠永浩先生にお話を伺った。
篠永 浩 先生
三豊総合病院 薬剤部 副薬剤部長

院内と地域をつなぐ相談窓口として「地域連携担当薬剤師」を配置

三豊総合病院は香川県西讃地域の三次救急を担う中核拠点病院であるが、隣接する愛媛県東予地域や徳島県、高知県の一部からも患者を受け入れている。地域医療支援病院、へき地医療拠点病院の指定も受けており、在宅医療やへき地医療にも対応。

三豊総合病院では延べ52の各種認定・専門資格を有した薬剤師26名(2021年6月現在)が一般病棟に常駐し、院内のチーム医療においても薬剤師の専門性を生かした活動を実施してきました。一方で、薬に関する問題を抱えたまま退院する患者さんがいながら、地域にその問題をつなぐ機能が欠けていることが課題でした。さらに、地域の薬局も7〜8割が在宅訪問の施設基準を満たしているものの、その中で実際に訪問し算定経験のある薬局は2割程度という状況もありました。

地域連携の方法を模索していたとき、もとから交流のあった観音寺・三豊薬剤師会からも、地域連携拠点病院である三豊総合病院を中心とした連携構築の要請があり、薬学的課題がある患者への支援により退院後も安全・安心な薬物治療を継続して受けられることを目的に、2017年に同院に「地域連携担当薬剤師」を設置し、院内と地域をつなぐ取り組みがはじまりました。当時1人で「地域連携担当薬剤師」として活動を開始した篠永浩先生は、「院内では一定の水準まで薬剤師が活動できるようになったので、次の段階として地域に対して薬学的貢献をしたいと考えました。薬学的問題があっても、どうすればいいかがわからなければ介入することもできないため、『地域連携担当薬剤師』を標榜することで、薬剤関連の院内外からの相談窓口を可視化したのです」と振り返ります。

地域連携担当薬剤師の主な業務は、退院後に薬学的連携が必要と思われる症例への介入、地域連携部門との情報共有、院内外の多職種からの相談の応需、薬局の訪問薬剤管理指導の導入対応、情報提供ツールの作成と運用システムの構築、地域連携協議会での活動です。

退院後に問題のありそうな症例がないかを病棟から情報収集し、退院後の支援方法を院内の多職種で検討します。訪問指導が必要と判断されれば、薬局やケアマネジャーなどに連絡・依頼し訪問、その状況がまたフィードバックされるという流れです()。「薬剤部の業務を行いながら、薬学的問題を抱えている患者さんはいないかと毎日のように地域連携部門に聞きに行っていました」(篠永先生)。

院外の薬局・多職種との関係構築は研修と成功事例の経験を同時に

院内で入院患者への介入を進めると同時に、地域の薬剤師会や多職種との関係構築も行いました。地域の薬剤師会に対しては、病院から薬局へ介入依頼時に患者情報を伝える「薬剤管理サマリー」、保険薬局で得られた情報を処方医に伝える「服薬情報提供書」、薬局から病院へ介入状況を報告する「介入状況報告書」、訪問薬剤管理指導の介入状況を報告する際に活用する「訪問薬剤管理指導報告書」など地域共通の情報共有ツールを協働で作成し、訪問薬剤管理指導を円滑に導入できるシステムを構築しました。また、ツールの活用方法や訪問薬剤管理指導を行う際に必要な要素をテーマに、薬薬連携セミナーも2ヵ月に1回程度定期的に実施しました。在宅訪問の経験がない薬局に対しては、実際に体験することがもっとも効果的であると考え、まずは訪問指導を実施してもらい、そこから出てきた疑問に対して篠永先生が一つひとつ対応する形で導入を進めていきました。

さらに院外の多職種に対しては、行政が主体である医療介護連携協議会を介して薬剤師の機能を認知してもらうことから始めました。研修で薬剤師の役割を知ってもらうと同時に、薬局に対しての導入と同じく、実際の相談事例や依頼が薬局の訪問につながり、薬剤師が訪問することのメリットを成功体験として行政側に実感してもらったのです。「多職種が参加する研修会も企画しています。ひとつの課題をそれぞれの職種の専門性からどのように考えるかを知ることで、現場での選択肢が広がります」(篠永先生)。

現在は病棟担当薬剤師だけではなく、看護師やソーシャルワーカー、外来や行政からの相談も増えてきています。

薬剤部業務の効率化・簡素化を図り複数の専門チームを発足


薬学的専門性を生かし多職種と連携する地域連携担当薬剤師チーム。

訪問指導につなげることができた例は2016年には2件しかありませんでしたが、2017年以降は介入件数が60〜70件、訪問指導導入件数は30件程度になりました。「相談窓口を可視化し介入することによって、問題を抱える症例が顕在化したのだと思います」(篠永先生)。業務量も激増したため、2020年には「地域連携担当薬剤師チーム」として6名に増員され、介入対象の患者さんのスクリーニングや質問票などを用いた介入など能動的な活動ができるようになりました。

同時に「ポリファーマシーチーム」、薬局からの疑義紹介の簡素化を図るための「院外処方PBPM(Protocol Based Pharmacotherapy Management)チーム」が発足し、従来から稼働していた「感染制御チーム(ICT)」「抗菌薬適正使用チーム(AST)」「栄養サポートチーム(NST)」「緩和ケアチーム」などと合わせて、薬剤部員は各種チームに所属し活動を行なっています。在宅療養時にポリファーマシーや低栄養などの問題が生じれば、地域連携担当薬剤師チームと該当する他のチームが協働して新たな問題に介入するなど、さらに連携の輪が広がります。

「2020年の診療報酬改定で退院時薬剤情報連携加算や薬剤調整加算が新設されたことも、このような体制構築を後押ししました。ただし、決して薬剤部のマンパワーが充足しているわけではありません。業務の徹底した効率化を図り、毎日30分〜1時間程度はチームの活動ができるように時間を捻出しました」と篠永先生は、マネジメント面で苦労があった実態を打ち明けます。しかし、「病棟担当薬剤師は、退院後の状況がわからなかった患者さんを薬局につなぐことで、より強い責任感を持つようになりました。発行した薬剤管理サマリーに対して6割程度の返信が薬局からあり、熱心に取り組んでいただいていることがわかります」(篠永先生)。

地域の医師への情報提供と高齢者の健康を支える活動が今後の課題

地域連携のための介入を開始して新たな問題も浮き上がってきました。ポリファーマシーへの対策です。入院中に薬剤数を調整し薬剤管理サマリーで薬局に伝えても、入院前の処方に戻るケースが生じています。処方医にまでその情報が伝わっていないためです。「ポリファーマシーに関しては薬剤師だけで連携してもうまくいきません。地域の医師全体への情報提供も必要と考え、ポリファーマシー対策の実施を地域の開業医へ説明し、文書で了承を得ました。今後はかかりつけ医に対してもサマリーを発行したいと思います」と、篠永先生はすでに対策を打っています。

さらに今後は「病院を受診していない地域の高齢者に対して、薬剤師としてどのように関わっていけるかが課題です」(篠永先生)。高齢者の健康増進や介護予防は全国的な課題です。そこで高齢者で問題視されている低栄養・フレイルについて薬局で患者や高齢者が自己チェックできるシートを作成し、低栄養や運動療法の指導ができる薬剤師を養成するために「地域サポート薬剤師」認定制度を創設しました。2021年3月時点で42名が認定を取得しています。「前述の地域連携のための情報提供ツールにも低栄養・フレイルに関する項目を入れていますが、薬局に来る方はもちろん、地域のイベントやサロン、スポーツジムやスーパー、企業や行政とのタイアップなど、あらゆる場に薬剤師が出向き地域の高齢者の健康をサポートする。地域の方にも『困ったことがあれば薬剤師に相談しよう』と思ってもらえるまでになりたいと考えています」と、篠永先生は地域薬剤師の将来像を語ります。

病棟から地域へ、患者の疾患治療から高齢者の健康サポートへ、三豊総合病院では薬剤師の専門性を生かせる場を着実に拡充させています。

図:地域連携担当薬剤師による相談応需システム
※WEBにて取材を行いました(2021年8月)。

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