【いまさら聞けない透析の基礎知識】 シャントトラブル④ 静脈高血圧、動静脈瘤 監修医師:奈良県立医科大学 腎臓内科学 鶴屋 和彦 先生

死亡原因の3割以上を心血管疾患が占める

透析患者さんはさまざまな合併症リスクを抱えていますが、なかでも心血管疾患は生命予後に関わる重要な合併症です。透析患者さんの死亡原因の2位は「心不全」(21.0%)で、5位の「脳血管障害」(5.4%)と6位の「心筋梗塞」(3.3%)を合わせると、約3割を心血管疾患が占めています(日本透析医学会「図説 わが国の慢性透析療法の現況[2022年12月31日現在]」)1)

心不全の原因として考えられるのは、虚血性心疾患、心臓弁膜症、高血圧性心臓病、代謝性心筋症、長時間持続する徐脈性・頻脈性不整脈、心膜炎などですが、非心臓性浮腫の場合もあります2)

非心臓性浮腫とは、心臓に器質的あるいは機能的な障害を伴わない浮腫のことで、食塩の摂りすぎによる体液量の過剰、重症貧血、過大血流量内シャント、高血糖などが原因で起こります。透析患者さんに生じるうっ血症状の約25%が非心臓性浮腫とも言われているため2)、注意が必要です。

脳血管障害や心筋梗塞の原因は、動脈硬化がほとんどです。透析患者さんの多くは高血圧や糖尿病を持ち、血液中のリンやカルシウムの濃度の異常も影響して動脈硬化や血管石灰化が進行しやすい状態にあります3)。動脈硬化は、血管の内膜にコレステロールが蓄積し、アテローム(粥腫)のプラーク(隆起)が形成される状態です。プラーク破綻や血栓が生じると、脳出血や脳梗塞、心筋梗塞が発症します。

動脈硬化は末梢動脈疾患(PAD)も引き起こし、下肢の潰瘍や壊死のリスクにつながります。

記事の後半では、頻度がもっとも高い心不全について、透析患者さんが心不全を起こしやすい理由、予防、注意すべき症状、治療を解説します。

心不全予防の基本は体重管理と血圧の正常化

透析患者さんが心不全を起こしやすい主な理由は次のとおりです。

  • ドライウエイトまで除水できず体液過剰になり、心臓に負担がかかる
  • 高血圧が長期に続き、心臓への負担が増す
  • リンやカルシウムのコントロール不良により弁の石灰化から心弁膜症に至るリスクが上がる
  • 貧血による心臓の機能障害
  • 透析不良による尿毒症性の心筋障害
  • 動脈硬化による虚血性心疾患
  • シャントによる心臓への負担

予防で大切なのは、食塩や水分の適正な制限、透析による体重管理と、血圧の正常化です。体重の増加は、中1日でドライウエイトの3%以内、中2日で5%以内にとどめるのが基本です。中2日となる週末~週初めが心不全を起こしやすいので、きちんと自己管理ができるように指導しましょう。

飲酒や禁煙についての指導、血清脂質の正常化、シャントの血流過多の観察も大切です4)

心不全の症状は、呼吸困難、起坐呼吸、血痰ですが、透析中に血圧低下を繰り返すなど、血圧の維持が困難でドライウエイトに到達できないというようなときは心不全のリスクが高まります4)

治療の基本は、食塩や水分の制限と透析による除水で、厳格な体重管理が重要です。薬物療法としては、心保護作用のあるACE阻害薬などのレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAA系)薬や、β遮断薬の投与が有効とされています4)

透析療法の基本である体重管理と血圧管理をしっかりと行うことによって、心不全のリスクが低減し、患者さんの良好な生命予後につながります。

<参考資料>

1)
わが国の慢性透析療法の現況(2022 年 12 月 31 日現在)p.473-536
2)
日本透析医学会雑誌 44巻5号p.369-374
3)
https://www.kissei.co.jp/dialysis/about_dialysis/complications.html
4)
『基礎からわかる 透析療法 パーフェクトガイド』(学研) p.210-223

イラスト

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