これだけは押さえたい!
一般診療における排尿管理・ケアのポイント

問診から始まる
過活動膀胱診療

監修:札幌医科大学医学部 泌尿器科学講座 教授 舛森 直哉 先生

下部尿路(膀胱,尿道)に障害がある状態を下部尿路機能障害(LUTD)と呼び,蓄尿や排尿に関する下部尿路症状(LUTS)を有する患者が増加しています。LUTD/LUTSは,生命に直接関わることはないものの,患者のQOLや健康寿命に大きな影響を及ぼします。

診療科を問わず,一般診療でLUTD/LUTSに遭遇する機会は少なくありません。高齢社会において今後も増え続けるであろうLUTD/LUTSへの対策では,泌尿器科専門医だけでなく,一般医家との連携が必要です。本コラムでは,一般診療で排尿トラブルを抱え困窮している患者を見つけ,適切に介入するためのポイントを紹介します。

排尿トラブルで悩んでいるのは自分だけ?受診していない患者さんは多い

「トイレまで間に合わず尿を漏らしてしまう」「夜中にトイレのために目が覚めてしまう」「日に何度もトイレに行きたくなる」…。

患者さんから,身近な悩み事として「トイレ」の話を相談されたことはありませんか。

その一方で,年代を問わず他人,家族にも相談しにくいのが「トイレ,おしっこ」の話です。男性も女性も40歳を過ぎたころから頻尿,尿失禁などの下部尿路症状(LUTS)が現れやすくなります。しかし,「おしっこのことで悩んでいるのは自分だけ?」と思っている患者さんは多いのです。

排尿トラブルは患者さんのQOLの低下につながりますが,LUTSがあっても,病気として認識していなかったり,恥ずかしさから泌尿器科への受診をためらうなど,必要な治療を受けていない方も多くいます。

過活動膀胱の診断には自覚症状の問診が大切

LUTSの一つである過活動膀胱(OAB)は,尿意切迫感を必須症状とし,頻尿(昼間・夜間),切迫性尿失禁を伴う場合もあります。

『過活動膀胱診療ガイドライン[第3版]』では,一般医家向けの過活動膀胱診療アルゴリズムが示されています1)。OABが疑われ,治療を希望している成人の男女を対象としたアルゴリズムで,基本評価項目の一つに自覚症状の問診を挙げています。

OABの必須症状である尿意切迫感を患者さんにわかりやすく説明するためには,問診での工夫が必要です。たとえば「何かをしている最中に,そのことを中断してでもトイレに行きたくなる」「我慢できない尿意を感じる」がいつ頃から始まり,どのような時に症状が出るか,出産経験の有無(女性の場合),尿取りパッドの使用の有無などについても確認します。

『過活動膀胱診療ガイドライン[第3版]』では,OABを疑う全例に過活動膀胱症状スコア(OABSS)を用いた評価を行うことが推奨されています2)

かかりつけ医だからこそ聞き取れる患者さんの悩みへの対応

OABの患者数は,2003年の疫学調査では約810万人,40歳以上の12.4%とされ3),2012年の人口構成で算定すると1,040万人,14.1%と推定されます。OABの有症状率は加齢に伴い上昇しますが,医療機関への受診率はOAB有症状者の22.7%にとどまっているのが現状です4)。慢性疾患で通院中の40歳以上の女性患者の22.3%がOABの診断基準に合致し,この割合は医師が想定する有症状率の2倍以上でした5)。医師が想定しているよりもOABのためにQOLが損なわれている患者さんは多いことが示されました。

クリニックを受診している40歳以上の男女では,何らかの排尿トラブルを抱えていることが少なくありません。患者さんにとって「おしっこ」の悩みは相談しにくいものです。患者さん自らが「おしっこ」の話をしやすい雰囲気づくりも大切です。たとえば,排尿トラブルに関する疾患啓発のポスターや患者冊子を,患者さんの目にとまりやすい場所(クリニックの受付や待合室,トイレ)に設置してみてはいかがでしょうか。

日ごろから定期的に患者さんと接する機会が多い,かかりつけ医だからこそ,患者さんも「おしっこ」の悩みを打ち明けられるかもしません。患者さんから排尿トラブルのことで相談されたら,ぜひOAB診療に取り組んでください。その際,OABSSは診断ツールとして有用です。

OABと診断し,適切に介入することで患者さんのQOL向上が期待されます。治療によって効果が不十分な場合には,専門的な検査が必要ですので,泌尿器科専門医に紹介してください。

<参考資料>

日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会(編).過活動膀胱診療ガイドライン[第3版].  リッチヒルメディカル; 2022. p.12-17.
日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会(編).過活動膀胱診療ガイドライン[第3版]. リッチヒルメディカル; 2022. p.164.
本間之夫ほか.日排尿機能会誌 2003; 14: 266-77.
日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会(編).過活動膀胱診療ガイドライン[第3版]. リッチヒルメディカル; 2022. p.148-151.
吉田正貴ほか. Prog Med 2008; 28(1): 193-201.

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