今回は,最近の統計数字から日本と世界それぞれの糖尿病事情を探ります。
統計数字からみる糖尿病
直近10年間[2009(平成21)年~2019(令和元)年]で日本人の糖尿病が強く疑われる人*の割合は、どのように変化しているでしょうか。次の中から正しいものを1つ選んでください。
- 増えている
- 減っている
- かわらない(大きな増減はみられない)
*厚生労働省「国民健康・栄養調査」の定義による。この場合,HbA1cの測定値があり,身体状況調査票の問診において「これまでに医療機関や健診で糖尿病といわれたことの有無」,「現在,糖尿病治療の有無」,および「現在の状況」について有効回答が得られた人のうち,HbA1c(NGSP)値が≧6.5%[平成23年まではHbA1c(JDS)値≧6.1%]または「糖尿病治療の有無」に「有」と回答した人をいう。
3「かわらない(大きな増減はみられない)」
解説
2019年に実施された厚生労働省の「令和元年 国民健康・栄養調査」1)によると,「糖尿病が強く疑われる者」の割合は男性19.7%,女性10.8%で,この10年間の傾向として男女とも有意な増減はみられないと報告されています。
しかし,日本人の食生活は欧米化しているので発症リスクが高くなり,糖尿病の患者数は増えているはずではないか,と思われた方も多いのではないでしょうか。実際の調査結果をみることでこの疑問を解き明かしてみましょう。
「糖尿病が強く疑われる者」を年齢層で区切って比較すると,男女ともに高齢になるほど「強く疑われる者」の割合が高くなり,逆に若年層は低いということがわかります(図1)1)。つまり,日本の糖尿病患者数へのイメージは,あくまでも高齢者人口の増加が影響しているのではないかと考えられるのです。
実際にこのことを裏付ける研究もあります。糖尿病の患者数に関するさまざまなデータを集めて年齢で調整し,その推移をみたところ,実は日本人全体で糖尿病患者が増えているわけではなく,発症リスクの高い高齢者人口の増加が患者数を押し上げていることが明らかになったと報告されています2)。
図1「糖尿病が強く疑われる者」の割合(20歳以上,性・年齢階級別)1)
「令和元年 国民健康・栄養調査」の年齢調整後の年次推移をみても,この10年間で男性は12.6%(2009年)→13.8%(2019年)と微増,女性は7.8%→7.7%とほぼ横ばいですので,全体の割合としては「有意な増減はみられない」といえます(図2)1)。
図2 年齢調整した「糖尿病が強く疑われる者の割合の年次推移(20歳以上)1)
世界の糖尿病患者数は,今後もいっそう増加
一方,世界に目を転じると,糖尿病患者数は増え続けています。
国際糖尿病連合(International Diabetes Federation:IDF)の報告によると,2021年時点で糖尿病(1型糖尿病および2型糖尿病)を抱えながら生きる成人(20~79歳)は5億3,700万人と推計され,これは同じ年齢層の世界人口の10人に1人(10.5%)が糖尿病に罹患している計算になります。世界人口の増加とともに今後も患者数は増え,2030年には6億4,300万人,2045年には7億8,300万人になると予測されています。
また,糖尿病を抱えながら生きる成人の約2人に1人は診断を受けておらず,そうした患者の約9割が低・中所得国に集中していることも指摘されています。
そのため,IDFは糖尿病の早期発見と合併症予防の観点からも,適正な医療費で継続的な治療を受けられる体制の整備や糖尿病教育が課題であることを訴えています3)。
1) 厚生労働省.令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要. p.20
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf(2022年11月閲覧)
2) Goto A, et al. Increasing Number of People with Diabetes in Japan: Is this Trend Real? Intern Med 2016; 55: 1827-30.
3) IDF Diabetes Atlas Tenth edition 2021. Diabetes facts&figures.
https://www.idf.org/aboutdiabetes/what-is-diabetes/facts-figures.html(2022年11月閲覧)