今回のテーマは,「低血糖」です。
低血糖
低血糖に関する記述で,正しいものを選んでください。
(正解はひとつとは限りません)
- 低血糖は,糖尿病患者が糖尿病以外の疾患に罹患し,発熱,下痢・嘔吐,食欲不振で食事ができないなど体調不良の状態である。
- 低血糖の症状が現れる血糖値には個人差があり,症状も人によって異なる。
- 糖尿病でない人では低血糖は起こらない。
- 重症低血糖の頻度は加齢とともに増加し,80歳以上で最も高くなる。
解答:正解は2)と4)
‐他の選択肢‐
- シックデイ(sick day)に関する記述です。糖尿病治療中に,感冒などの感染症により発熱,下痢・嘔吐,食欲不振などで普段の食事ができなくなる,または外傷などに伴う心身のストレスによって,血糖値が乱れやすくなるために体調不良となる日,あるいはその状態を指します。シックデイになると,コルチゾールやアドレナリンなどのストレスホルモンが分泌されて血糖上昇に働き高血糖となる一方,十分な食事量を摂取できないために低血糖を起こすこともあります。
- 糖尿病と診断されていない人でも低血糖は起こります。通常,生体はホメオスタシスにより基準値内の血糖値(80~140mg/dL)に保たれていますが,極端な絶食や空腹時の激しい運動,不規則な食習慣などでインスリン分泌が過剰となる,あるいは遅延すると食後の血糖値が下がりすぎて低血糖を起こすことがあります(反応性低血糖)。また,低血糖を起こしていることに気づいていない人(無自覚低血糖)もいます。
解説
低血糖症状は突然現れ,症状は多彩
糖尿病治療中に起こる低血糖は,経口血糖降下薬やインスリン注射の作用が普段よりも過剰となって血糖値が下がりすぎてしまった状態です。低血糖が起こる要因として,十分な食事量(糖質)が摂れない,食事が不規則(食事の時間が遅れる),普段より身体活動量が多い(強度・時間),治療薬の変更などがあげられます。
低血糖の症状が現れる血糖値には個人差があります。一般に,警告症状として,発汗,手指のふるえ,動悸,不安感,悪心などの自律神経症状が現れはじめます1)。このときに低血糖に気づいて対処すれば,重症化を回避することができます。
さらに血糖値が下がると,中枢神経のエネルギー不足を反映して,頭痛,眼のかすみ,空腹感,眠気(生あくび)などの中枢神経症状が現れ,血糖値が50mg/dL以下になると,意識レベルの低下,異常行動,痙攣などが出現し昏睡状態に陥り,生命を脅かす状態となります2)。
低血糖を繰り返し経験すると低血糖状態に慣れてしまい,無自覚低血糖を起こしやすくなります。低血糖は,どの症状が現れるかは人によって異なり,年代を問わず糖尿病の治療中にみられる頻度の高い緊急事態であり2),糖尿病治療では低血糖を起こさないようにすることが大切です。
重症低血糖を起こしやすい高齢者
高齢者糖尿病では,加齢とともに肝・腎機能が低下し,投与している薬剤の排泄遅延によってインスリン作用が効きすぎて低血糖を起こしやすくなります。また,自律神経機能や認知機能が低下していると,無自覚低血糖を起こすことが多くなります。
高齢者では,低血糖でなくても,頭がくらくらする,体がふらふらする,ろれつが回らない,目がかすむ,意欲低下,せん妄などの症状を示すこともあります。そのため低血糖が見逃されやすく,加齢に伴って重症低血糖の危険性が高まります。
重症低血糖の頻度は加齢とともに増加し,80歳以上で最も高くなります3)。高齢者の重症低血糖は,転倒・骨折,認知症,うつ病,フレイル,心血管疾患,死亡の危険因子にもなります。
血糖変動の見える化による血糖コントロール
高齢者では,糖尿病ではなくても,低血糖に気づかない無自覚低血糖が起こることがあり,高齢ドライバーの交通事故の一因ではないかと指摘する報告があります4)。また,無自覚低血糖が夜間就寝中に起こる夜間低血糖では,対処が遅れると重症化する場合があります。その一方で,低血糖になることを恐れてしまい,自己判断で薬の量を調整あるいは中断して血糖コントロールを悪化させ,QOLを損なう可能性がある低血糖恐怖症が注目されています。
近年,血糖自己測定デバイスのCGM(持続血糖モニタリング)の登場により,24時間連続して血糖変動を把握することが可能になってきました。血糖値スパイクや夜間低血糖,無自覚低血糖,食後高血糖などに気づく手助けとなります。CGMによって,患者自身が低血糖に対して事前の対策を取れるようになることで、血糖コントロール改善に寄与することが期待されています5)。
- 厚生労働省.糖尿病を治療するために知っておきたいこと~低血糖症状~.
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu/pdf/03-b-16.pdf(2024年1月閲覧) - 日本糖尿病学会.糖尿病治療ガイド2022-2023. 2022.
- 日本老年医学会/日本糖尿病学会 編・著.高齢者糖尿病診療ガイドライン2023.2023.
- Noma Y, et al. Diabetol Int 2019; 11(2): 150-4.
- 日本糖尿病学会.リアルタイムCGM適正使用指針(2023年11月1日改訂).
http://www.jds.or.jp/uploads/files/document/cgm/CGM_usage_guideline.pdf(2024年1月閲覧)