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Basic Knowledge

「診療現場でよく耳にする言葉,きちんと説明するとなると,知っているようでよくわからない,似ていて違いがわからない」と思ったことはありませんか。本コラムでは,糖尿病診療の現場で使われている用語とその考え方,
最新の話題についてクイズ形式でご紹介します。

今回のテーマは,
「下部尿路症状(lower urinary tract symptoms:LUTS)」です。

下部尿路症状(lower urinary tract symptoms:LUTS)

QLUTSの説明として正しいものを選んでください(正解はひとつとはかぎりません)。

  • LUTSは,蓄尿症状と排尿症状の2つに分類される。
  • 蓄尿症状や排尿症状の有症状率に,性差はない。
  • 日本で過活動膀胱の症状を有する人は約1,000万人と推定されている。
  • 糖尿病患者では,LUTSを有していることが多い。

A
正解は3)4)

‐他の選択肢‐

  • LUTSは,主に蓄尿症状(昼間頻尿,夜間頻尿,尿意切迫感,尿失禁,膀胱知覚),排尿症状(尿勢低下,尿線分割・尿線散乱,尿線途絶,排尿遅延,腹圧排尿,終末滴下),排尿後症状(残尿感,排尿後尿滴下)などに分類されます1)
    その他の症状として,性交に伴う症状,骨盤臓器脱に伴う症状,生殖器痛・下部尿路痛があります。さらに、生殖器・尿路痛症候群,下部尿路機能障害を示唆する症状症候群も含まれます。
  • LUTS の性質に性差による違いはないですが,男性では蓄尿症状に加えて,膀胱出口部閉塞(前立腺肥大症)による排尿症状,排尿後症状が多いのに対して,女性では骨盤底機能障害による腹圧性尿失禁がみられ,蓄尿症状が主体であることが多くなります1)

解説

夜間頻尿

 夜間頻尿は,LUTSの中で最も頻度が高く、多くの因子が関与します。多尿,夜間多尿,膀胱蓄尿障害,睡眠障害が主な要因とされていますが,糖尿病や高血圧などの生活習慣病との関連も示されています。

 「夜間頻尿診療ガイドライン第2版」では,夜間頻尿の治療を希望している成人を対象として、一般医向けアルゴリズムが発表されています2)

 基本評価を行い,夜間頻尿のみの場合,夜間多尿の疑いがあれば泌尿器科医に紹介し,睡眠障害の可能性があれば睡眠障害の治療を行います。夜間頻尿にその他のLUTSが合併している場合は,男性では前立腺肥大症あるいは過活動膀胱(overactive bladder:OAB),女性ではOABによる可能性が高いため,それぞれのガイドライン1, 3, 4)を参考に行動療法,薬物療法を行います。夜間頻尿に昼間頻尿のみが合併している場合は多尿が疑われます。いずれの場合も,改善がみられなければ専門医への紹介となっています。

約1,000万人と推定される過活動膀胱

 尿意切迫感を必須症状とするOABは,QOLを低下させるといわれています。日本排尿機能学会が2002~2003年に40歳以上の男女を対象に行った疫学調査では,OAB症状(1日の排尿回数8回以上,尿意切迫感が週1回以上)の有症状率は12.4%で,高齢になるほど上昇していました5)。2012年の人口構成にすると,OAB患者は1,040万人と推定されています3)

 2022年に改訂された「過活動膀胱診療ガイドライン第3版」の一般医家向けアルゴリズム3)では,鑑別すべき疾患を除外して血尿,膿尿,残尿の状態を確認し,行動療法・薬物療法を行い,それでも改善がみられない場合は専門医への紹介とされています。

糖尿病と過活動膀胱

 糖尿病は,その合併症である神経障害が下部尿路機能に影響を及ぼし,LUTSを発症させるリスク因子といわれています4)

 LUTSを有する女性2型糖尿病患者の53%がOABを合併していることが報告されています6)。OABの有病率を糖尿病の有無で比較した検討によると,糖尿病患者は,糖尿病がない人と飲水量が同程度でも,1日の排尿回数や尿意切迫感回数が多いことが示されています7)

 OABの原因の一つとして,動脈硬化の進行により慢性的な膀胱血流障害や酸化ストレスが生じることが考えられています。糖尿病の初期から膀胱虚血や酸化ストレスによる排尿筋過活動で蓄尿症状が認められ,自律神経障害が進行すると排尿筋低活動により排尿症状がみられるようになります。

 糖尿病による下部尿路機能障害(diabetic bladder dysfunction:DBD)で,尿意切迫感,切迫性尿失禁などの蓄尿症状や,尿閉,溢流性尿失禁,排尿知覚低下,排尿筋収縮低下が起こります8)。DBDのLUTSは多彩であり,経時的に変化することが知られています9)。それらを防ぐためにも,OABの有無にも留意した糖尿病治療の重要性が指摘されています。

  • 日本泌尿器科学会 編.男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン.2017.
  • 日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会 編.夜間頻尿診療ガイドライン第2版.2020.
  • 日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会 編.過活動膀胱診療ガイドライン第3版.2022.
  • 日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会 編.女性下部尿路症状症診療ガイドライン第2版.2019.
  • 本間之夫ほか.日排尿機能会誌2003; 14: 266-77.
  • Karoli R, et al. Indian J Endocrinol Metab 2014; 18: 552-7.
  • Palleschi G, et al. World J Urol 2014; 32: 1021-5.
  • Wittig L, et al. Urology 2019 123: 1-6.
  • 市原浩司ほか. 日化療会誌 2016; 64: 730-4.
A

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