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Basic Knowledge

「診療現場でよく耳にする言葉,きちんと説明するとなると,知っているようでよくわからない,似ていて違いがわからない」と思ったことはありませんか。本コラムでは,糖尿病診療の現場で使われている用語とその考え方,
最新の話題についてクイズ形式でご紹介します。

今回のテーマは,「糖尿病合併症」です。

糖尿病合併症

Q糖尿病合併症の説明として正しいものを選んでください(正解はひとつとはかぎりません)。

  • 世界の糖尿病および糖尿病による腎臓病の年間死亡者数は2019年に200万人と推定されている。
  • 糖尿病の合併症である大血管症には,虚血性心疾患,脳血管障害,糖尿病性腎症がある。
  • 急性合併症の糖尿病性ケトアシドーシスは1型糖尿病患者,高浸透圧性高血糖状態は2型糖尿病患者で多い。
  • 2023年に糖尿病の高齢者,網膜症,歯周病に関するガイドラインがそれぞれ刊行されている。

A
正解は1)と3)

‐他の選択肢‐

  • 糖尿病性腎症は大血管症ではなく,腎臓の細い血管に障害が起こる細小血管症です。なお,糖尿病の合併症の覚え方として「しめじ」,「えのき」が知られています。細小血管症の神経障害(し),網膜症(め),腎症(じ)。大血管症は足の壊疽(え),脳血管障害(の),虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)(き)。
  • 2023年に「高齢者糖尿病診療ガイドライン2023」1),「糖尿病患者に対する歯周病治療ガイドライン改訂第3版2023」2)が刊行されていますが,「糖尿病網膜症診療ガイドライン(第1版)」3)は2020年に発表されました。

解説

糖尿病と合併症の疫学

 糖尿病治療の目的は,糖尿病に特徴的な合併症や併存症の発症,増悪を防ぎ,健康人と変わらないQOL,寿命を得ることと考えられています4)

 WHOのファクトシート5)では,糖尿病および糖尿病による腎臓病の世界での死亡者数は2019年に200万人に達していると推定されています。また,国際糖尿病連合(International Diabetes Federation:IDF)の糖尿病アトラス第10版6)によると,2021年の糖尿病者数は5億3700万人(20~79歳の10人に1人)で,2030年に6億4300万人,2045年には7億8300万人まで増加すると予測されています。WHOは,糖尿病対策として『グローバル糖尿病コンパクト※』7)を発表し,予防と管理の包括的アプローチに取り組んでいます。

※糖尿病の治療を必要とする,すべての人への適切な医療の提供や2型糖尿病の予防,新たな治療法の開発の後押しなどを目的とし,定期健診をより多くの人が受けられる環境作りやHbA1cによる治療目標のさらなる達成,合併症対策の充実など,5つのグローバル目標を設定しています。

急性合併症

 糖尿病の合併症は急性合併症と慢性合併症に分けられ,急性合併症には糖尿病性ケトアシドーシス,高浸透圧性高血糖状態,感染症があります。

 糖尿病性ケトアシドーシスは,1型糖尿病患者がインスリン注射を中断した場合などに急激に発症することが多く,インスリンの欠乏により高血糖,高ケトン血症,アシドーシスをきたします。高浸透圧性高血糖状態は,2型糖尿病患者で多く,著明な高血糖と高度な脱水により血液が極端に濃縮されます。

 また,糖尿病で血糖コントロールが良好でない場合,好中球の機能や免疫反応が低下し,肺炎,尿路感染,皮膚感染などの感染症が発症,あるいは重症化しやすくなります。

慢性合併症

 高血糖状態が長期に続いて発症する慢性合併症は,細小血管症と大血管症に分けられます。細い血管や神経に障害が起こる細小血管症として神経障害,網膜症,腎症があり,糖尿病の三大合併症と呼ばれています。

 糖尿病性神経障害は最も頻度が高い慢性合併症で,その多くは多発神経障害です。「糖尿病網膜症診療ガイドライン(第1版)」3)では,糖尿病と診断された場合,視力障害のリスクがあるため,速やかに眼科を受診し,定期検査を受ける大切さを啓発しています。

 糖尿病性腎症は,アルブミン尿が増加しタンパク尿の出現後に腎機能が低下するだけではなく,アルブミン尿が増加しない糖尿病関連腎疾患も増えています。その両者をあわせて糖尿病性腎臓病(diabetic kidney disease:DKD),さらに糖尿病と関連しない腎疾患患者が糖尿病を合併した場合も含めた糖尿病合併CKD(chronic kidney disease)という概念が提唱されています。

 動脈硬化により起こる大血管症には,虚血性心疾患,脳血管障害,末梢動脈疾患があります。また糖尿病性足病変は,神経障害や末梢動脈疾患により生じ,重症化すると下肢切断につながるため,フットケアによる予防が重要になります。

  • 日本老年医学会,日本糖尿病学会.高齢者糖尿病診療ガイドライン2023.2023
  • 日本歯周病学会.糖尿病患者に対する歯周病治療ガイドライン改訂第3版2023.2023.
  • 日本糖尿病眼学会診療ガイドライン委員会.糖尿病網膜症診療ガイドライン(第1版).日眼会誌2020; 124: 955-81.
  • 日本糖尿病学会.糖尿病治療ガイド2022-23.2022.
  • WHO. Fact sheets/Detail/Diabetes. 5 Apr 2023. https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/diabetes(2023年8月閲覧)
  • IDF Diabetes Atlas 10th edition. https://diabetesatlas.org/idfawp/resource-files/2021/07/IDF_Atlas_10th_Edition_2021.pdf(2023年8月閲覧)
  • Gregg EW, et al. Lancet 2023; 401: 1302-12.
A

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