kissei

Basic Knowledge

「診療現場でよく耳にする言葉,きちんと説明するとなると,知っているようでよくわからない,
似ていて違いがわからない」と思ったことはありませんか。本コラムでは,糖尿病診療の
現場で使われている用語とその考え方,最新の話題についてクイズ形式でご紹介します。

今回のテーマは,「プレシジョン栄養」です。

Quality Indicator

Qプレシジョン栄養の説明として正しいものを選んでください
(正解はひとつとはかぎりません)。

  • プレシジョン栄養とは,糖尿病,高血圧などの生活習慣病患者に対し,医師の指示に基づいて管理栄養士が病院で個別に行う食事指導のことをいう。
  • プレシジョン栄養とは,個人の生物学的解析データや生体データなどをAI技術と組み合わせて一人一人に最適化された栄養情報やプログラムを提供する先進的な栄養指導である。
  • プレシジョン栄養は,テーラーメイド栄養,個別化栄養などともいわれる。

A 解答:正解は2)と3)

~他の選択肢~

  • 生活習慣病の診断を受けた患者に対し,医師の指示に基づき管理栄養士が個別に行う栄養指導は「個別栄養食事指導」と呼ばれ,プレシジョン栄養とは異なります。プレシジョン栄養がITやAIなどの最新技術を活用して個別最適化された栄養プログラムを提供するのに対し,個別栄養指導は標準化された栄養学的知見に基づいて栄養情報を提供する従来型の指導法です。

解説

新しい栄養学の時代の幕開け

 プレシジョン栄養の”プレシジョン(precision)”は,「精密さ」を意味する言葉で,すでに医療分野ではゲノム情報などに基づいた個別化医療を表す「プレシジョンメディシン」として広く知られています。

 プレシジョン栄養も同様に”個人対応型の栄養”を意味します。集団から個へと栄養指導の対象を変えるプレシジョン栄養は「さまざまな因子を統合して導き出される栄養であり,各個人のそのときの状態において最適な栄養を提案し実行すること」1)とされ,近年,世界的にも注目されています。

年齢,ライフステージ,性別,ゲノム,エピゲノム,腸内細菌,睡眠,運動や活動度,体格や体組成,血液などにおけるバイオマーカー,病歴,ストレスや精神状態,食事履歴,嗜好,季節や時刻など。

 米国では,国立衛生研究所(NIH)が2020~2030年の10ヵ年戦略として「Precision Nutrition」を掲げ,2023年春から全米14ヵ所で米国民1万人を対象とした大規模健康調査を開始しています2)

 Precision Nutritionでは,「ガイドラインをベースにした従来の画一的栄養指導」から「食物に対する個人の感受性の違いを考慮した栄養指導」への転換が謳われ,将来の疾患予防や死亡率低下など健康増進につなげるとしています3)

 プレシジョン栄養では,遺伝子,たんぱく質,代謝物,腸内細菌などの生体分子情報を統合して解析するオミックス解析データ,各種生化学検査データ,ウェアラブルデバイスによるリアルタイムモニタリングデータなどのビッグデータを活用します。収集されたビッグデータを最新のAI技術で解析し,最終的に一人一人に最適化された食事療法を中心とした介入プログラムとして提示することを目標にしています。

 将来的には提示にとどまらず,介入結果をAIがリアルタイムで評価し,修正プログラムを提供…という評価→修正→実行のサイクルを繰り返す仕組みづくりも見据えられています4)

2型糖尿病とプレシジョン栄養

 2型糖尿病でもプレシジョン栄養による介入プログラム提供が実現されれば,現在の標準化された食事指導や運動プログラムでは得られなかった患者個人に”カスタマイズされた”指導により,むずかしいとされる食生活の改善が達成できる可能性を秘めているのです。

 実際に,AIが提供した食事プログラムにより食後血糖値が改善したという研究結果も報告されています5)。この研究では,対象コホートの生体データ(血液検査結果や腸内細菌解析など)とライフスタイルデータ(食習慣,活動度など)を統合させたアルゴリズムにより食後血糖値を予測し,個人に最適化された食事プログラムを提供・実行したところ,血糖値スパイクがほとんどみられず,専門家による食事指導とほぼ同等の血糖抑制効果が得られたのです。

 日本においても将来のプレシジョン栄養の実現に向け,その土台となるような研究や取り組みがすでに行われています6-8)

 しかし,プレシジョン栄養を社会実装するには,プラットフォームの構築や収集したデータの標準化の問題,”究極の個人情報”ともいわれる遺伝子情報をいかに保護していくのか9)など,越えるべきハードルはいくつもあるといえます。

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