kissei

Basic Knowledge

「診療現場でよく耳にする言葉,きちんと説明するとなると,知っているようでよくわからない,
似ていて違いがわからない」と思ったことはありませんか。本コラムでは,糖尿病診療の
現場で使われている用語とその考え方,最新の話題についてクイズ形式でご紹介します。

今回のテーマは,「Quality Indicator」です。

Quality Indicator

QQuality Indicator(QI)に関する記述で,正しいものに〇,誤ったものに×をつけてください。

  • 最新の専門的知識と実際に行われている診療との格差を評価するための尺度
  • 提供する診療やサービスの質を客観的な数値を用いて示し,経時的に追跡することができるツールの一つ
  • 最新のエビデンス,医療従事者の経験,患者の価値観を統合して,最善の医療ケアを実践すること
  • 診療ガイドラインの推奨へのフィードバックとしてQIを用いることができる

A 答え:1)〇, 2)〇, 3)×, 4)〇

  • 3)は臨床における根拠に基づいた実践(evidence-based practice: EBP)に関する記述です。

解説

QIと医療の質

 Quality Indicator(QI)は「医療の質を表す指標」で,医療の質を可視化することで,質の改善を促すためのツールの一つです。科学的根拠に基づいた医療(evidence-based medicine: EBM)を日常診療でどの程度実践しているか,その度合いを測定するための指標です。類似した用語に,臨床指標(Clinical Indicator),パフォーマンス指標(Performance Indicator)があり,いずれも医療の質を客観的に知るためのものですが,最近はQIがよく用いられています。

 医療の質に関して,米国医学研究所(現 米国医学アカデミー)は「個人や集団に対する保健サービスが望ましい健康アウトカムを達成できる可能性の高さ,その時々の専門的知識に合致している度合い」と定義しています1)。医療の質は,患者・国民,医療従事者,行政機関などそれぞれの立場で解釈され,時代とともに変化し,進化するものと考えられています。

医療の質を可視化し,改善を促すQI

 近年,患者や国民の意識変化から医療の質への関心が高まるとともに,医療従事者,医療機関ではQIを活用して質の改善を図ろうとする取組みが行われるようになっています。厚生労働省は,2010年度から2018年度まで「医療の質の評価・公表等推進事業」を実施し2),2019年度からは「医療の質向上のための体制整備事業」を開始しており,「医療の質指標基本ガイド」3)などの支援ツールを作成しています。QIの測定結果は,病院・団体のホームページで公表されています。

 診療ガイドラインで推奨されている標準医療(最新の専門的知識)と,実際の日常診療の間には隔たりがあるのが現実です。このことはevidence-practice gap(EPG)と呼ばれ,EPGを埋めるためにQIの活用は有用です。診療ガイドラインの推奨をもとにQIを設定し,その測定結果からEPGの原因を分析し,その改善策が診療ガイドラインの改訂に反映されることがあります。

 施設間でQIを比較することは可能ですが,病院の機能(急性期病院,慢性期病院など)や地域特有の背景(人口構成,都市部と地方など)はおのおの異なることから,単純に医療の質を比較することはできません。むしろ自施設のQIを時系列で追跡し,スタッフへのフィードバックを通じて改善策を検討し,それが有効であったかを検証することが重要と考えられています。

糖尿病診療におけるQI

 糖尿病診療におけるQIの具体例として,血糖コントロール目標達成率,糖尿病関連の検査の実施率,糖尿病合併症の発症率などがあります。

 検査についてはレセプト情報・特定健診等情報データベースを用いた調査結果が報告されています4)。2015年度に糖尿病治療薬の定期処方を受けた外来患者約415万人がガイドラインで推奨されている検査を年1回以上受けている割合は,血糖コントロール指標(HbA1cまたはグリコアルブミン)の検査で96.7%,網膜症検査では46.5%でした。一方で,尿定性検査は67.3%,尿アルブミンまたは蛋白の定量検査は19.4%でした。血糖コントロール指標の検査は高い実施率でしたが,それ以外の検査は都道府県や施設によって異なることが示されました。(:200床未満の施設のみ)

 これらの数値は糖尿病診療のQIと捉えることができ,医療従事者が検査実施に注意を払うことで,糖尿病診療の質向上や,適切な医療政策の立案に役立てることが期待されます。

 糖尿病治療は長期にわたるため,その診療の質の向上にはQIを明らかにしたうえで,多職種(検査技師,薬剤師,栄養士,看護師,理学療法士など)による評価と介入,質改善活動が鍵となります。QIの効果的な導入には多職種連携が不可欠です。

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