日本腎臓学会が1987年に提示した糸球体疾患の臨床症候分類2)では、RPGNを症候群として捉え、「急激に、あるいは潜在的に発症し、比較的短期間(数週間から数ヵ月)の間に腎機能障害が進行する。蛋白尿や血尿のほか、尿沈渣でtelescoped sedimentを認め、倦怠感とともに高血圧、貧血、高窒素血症などを認める」と定義している3)。しかしながら、実臨床ではこの臨床症候分類以外にも病理組織分類としての壊死性半月体形成性糸球体腎炎、顕微鏡的多発血管炎(MPA)や多発血管炎性肉芽腫(GPA)などの血管炎分類上の診断名も用いられること、さらに、これらは重複しながらも完全な一致をみないことがRPGNについての理解を難しくしている。
他方、進行性腎障害調査研究班が行った全国の腎専門施設へのアンケート調査4)によれば、1989年から2011年における4調査期間を通じて抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎(AAV)がRPGNの原疾患として最多であり、その割合は59.4~69.2%で推移している。AAVに次いで多いのが抗糸球体基底膜(GBM)抗体型腎炎であり、その割合は4.9~7.8%とされていることから、RPGNに関する理解を容易にするために、以降の概説はAAVを中心に行うことにする。
Kallenbergら5)がAAVについて記した総説では、病因としては遺伝的素因や環境因子(シリカへの暴露)が挙げられ、GPAについては黄色ブドウ球菌感染の関与が考えられるとされている。さらに、in vitro、in vivo双方の実験系でANCAが壊死性小血管炎および糸球体腎炎を誘発すること、ヒトおよび病理学的検討において補体系活性化の関与が示されたことも紹介されている。
AAVの発症頻度には地域差があるとされることから、私たちは宮崎県における(報告では原発性腎炎を伴う血管炎に限定したためprimary renal vasculitis:PRVという略号を使用)発症頻度を調査することにした6)。2000年から2004年にかけての調査では、PRV発症患者数は56例(男性24例、女性32例)、平均年齢70.4±10.9歳、年間発症率は15歳以上で14.8人/100万人、65歳以上では44.8人/100万人であった。また、2005年から2009年にかけて行った宮崎県と英国NorfolkとのAAVに関する比較調査7)では、5年間の人口100万人当たりの平均発症数がそれぞれ22.6人と21.8人、平均年齢は69.7歳、60.5歳とほぼ同様であったのに対し、主たるサブタイプについては宮崎県の場合はMPA(83%)、NorfolkはGPA(66%)という違いを認めた。
表に、日本におけるRPGNの診断の手順8-11)を示す。一般医家に対しては、尿所見、腎機能、炎症の程度をもってRPGNが疑われる場合には、速やかに当該患者を専門医に紹介することが勧められている。合わせてCTやエコーで腎臓のサイズを評価することも有用で、正常~腫大であればRPGNが疑われる。また、上述したようにRPGN患者は総じて高齢であり、7割をAAVが占めることから、上記項目に患者年齢も加味して判定し、さらにANCAの検査(MPO-ANCAは1998年から保険適用)を行うことが望ましい。
主訴は微熱と血尿である。初めて経験した血尿の出現をきっかけに泌尿器科を受診した。微熱と細菌尿を認めたため抗生剤の処方を受けたが、症状の改善はみられず、腎機能の悪化を認めたため初診から約2週間後に当院紹介入院となった。当院で腎生検を行ったところ半月体の形成を認め、ミエロペルオキダーゼ(MPO)-ANCAも上昇していたことからAAVと診断した。ステロイドとシクロホスファミド併用療法が奏効し、尿潜血は陰性化、クレアチニンも2.1から0.98mg/dLまで改善した。この症例では、高齢者における初の尿検査所見異常と腎機能障害が早期診断のポイントである。
主訴は発熱と食欲不振である。全身倦怠感と下肢の浮腫が出現したため、肺気腫の治療目的に通院していた内科に入院した。入院時検査で尿潜血陽性、蛋白尿陰性、クレアチニン軽度上昇、貧血(ヘモグロビン7.4g/dL)を認めた。肺炎と診断され薬物療法が行われたが症状、検査値ともに改善がみられなかったために他院を受診、そこで腎機能障害を指摘され、症状出現から1ヵ月強で当院紹介入院となった。腎生検で半月体形成を認め、MPO-ANCAも上昇していたためAAVと診断。ステロイドとミゾリビン併用療法により症状、検査値とも改善をみた。この症例のポイントは抗生剤では治まらない不明熱であり、RPGNの原疾患となる膠原病や血管炎症候群でも生じることを念頭に置いておくことが重要である。肺気腫の既往から呼吸器疾患と結びつけがちだが、AAVは間質性肺炎を起こすことも多い。また、肺線維症におけるANCA陽性例は全身性血管炎を起こすことも知られてきたことから、AAVには腎限局型のみならず肺限局型も存在する可能性を考え、呼吸器疾患を診ることの多い診療科ではANCAを測定するケースも増えている。
発熱、頭痛、倦怠感を訴えて受診、腎盂腎炎の疑いで他院入院となった。CRP高値ながらクレアチニンは正常、抗生剤の投与を受けたが、1ヵ月弱の経過でクレアチニン上昇、血尿が高度陽性となり当院紹介入院となった。貧血が高度(8.3g/dL)で、クレアチニン、CRPとも高値、MPO-ANCAは20.9U/mLであった。クレアチニンが3回の測定で階段状の悪化を示したため腎生検を行い、半月体形成性糸球体腎炎(AAV)と診断した。
この症例は血漿交換を行った上でステロイドを早期に減量するレジメンで治療した。図は本症例の臨床経過である。ステロイドの投与でCRPは速やかに低下、血漿交換療法とリツキシマブの投与でクレアチニンも低下をみている。この時点から7年後となる現在のクレアチニンは1.5mg/dL前後であり、再発もなく経過している。
金子らの調査結果4)にみられるように、現在の問題点には、生命予後が年々向上する一方で腎予後は必ずしも改善がみられないことが挙げられる。その背景として、患者の年齢や感染症死を考慮し、マイルドな免疫抑制治療が推奨されてきたことが考えられる。この問題を解決するには、上述した一般医家での早期診断に加え、従来の治療指針を見直す必要があると考えている。寛解導入ではステロイドの減量を可能にし、導入後は再発防止効果が高く感染リスクの低い治療法が求められる。一方で、発症年齢に上昇傾向がみられることから併存疾患のリスクも高まると考えられ、単純な免疫抑制治療の強化ではこのアンメットメディカルニーズには応えられない。
1つの解となりそうなのが、新規に登場した選択的C5a受容体拮抗薬アバコパンである。シクロホスファミドあるいはリツキシマブを投与するAAV患者を対象とした無作為化対照試験ADVOCATE研究12)では、26週時における寛解率はアバコパン群で72.3%、プレドニゾン群で70.1%であり、推定群間差の両側95%信頼区間(CI)の下限値が非劣性マージンである−20%を上回ったため、アバコパンのプレドニゾンに対する非劣性が検証された(推定群間差3.4%、95%CI:−6.0, 12.8、p<0.0001、要約スコア推定)。52週時における寛解維持率はアバコパン群で65.7%、プレドニゾン群で54.9%であり、推定群間差の両側95%CIの下限値が優越性マージンである0.0%を上回ったため、アバコパンのプレドニゾンに対する優越性が検証された(推定群間差12.5%、95%CI:2.6, 22.3、p=0.0066、要約スコア推定)。有害事象はアバコパン群の164例(98.8%)、プレドニゾン群の161例(98.2%)、重篤な有害事象はそれぞれ70例(42.2%)、74例(45.1%)、投与中止に至った有害事象はそれぞれ27例(16.3%)、28例(17.1%)に認められた。本試験の治療期における死亡はタブネオス群で2例、プレドニゾン群で4例だった。今後の症例蓄積により同剤の使用のタイミングが明確化され、AAVの実臨床に寄与することを大いに期待している。
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